梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「ここまでわかった新型コロナ」(上久保靖彦、小川榮太郎・WAC・2020年)要約・21・《■日本人に死者、重症者が少なくなった理由》

■日本人に死者、重症者が少なくなった理由
【小川】今回のS型とK型では抗体のでき方に差があるのか。
【上久保】そうだ。S型とK型は中和抗体ができにくい構造になっている。
【小川】中和抗体とはどういう意味か。
【上久保】抗体とは、病原体が体内に侵入したときに、その病原体と戦うために体がつくる「武器」だ。抗体は種類により病原体をやっつけることができない場合がある。病原体を完全にやっつけることのできる抗体を「中和抗体」と呼ぶ。「中和抗体」ができるか、できないかは病原体による。「中和抗体」ができる病原体で有名なのは、麻疹、風疹、ポリオなどだ。これらがワクチンを(複数回)うつか、一度罹患すれば、それ以降はかかることがない。B型肝炎ウィルスの抗体も一度できれば一生かかることはない。一方、「中和抗体」ができない病原体もある。病原体が体内にいることはわかるが、やっつけることはできない。それを「特異抗体」と呼んだりする。特異抗体しかできない病原体の代表が、HIVやC型肝炎ウィルスだ。こうしたものはワクチンができないし、ADEを起こしやすい。S型やK型も中和抗体ができない。特異抗体ができてしまう。特異抗体は新型コロナだと認識はできる。でも、やっつける力が弱い。K型は中和抗体ができないが、T細胞がサイトカインを非常に強力に出すので、ウィルスを抑制できる。S型はT細胞の反応が弱い。だから、そこにG型が来たときにADE(抗体依存性感染増強)を起こす。そのメカニズムを新型コロナに即していえば次のようになる。S型の特異抗体は中和抗体ではないのでウィルスをやっつけることはできないが、捕まえることはできる。だから、血管内皮や様々な組織の細胞などに出ている受容体(Fcγレセプター)に結合する。こうして、武漢G型や欧米G型など強毒性のウィルスはFcγレセプターを出した細胞内に入ることができるようになる。しかし、特異抗体はウィルスをやっつけることができないから、細胞になかでウィルスが増殖してしまう。それがある段階で爆発的に吐き出されると、いきなり劇症化して倒れるような現象を起こす。
【小川】S型に罹っていてK型に罹っていないところにG型が来るとADEで劇症化してしまう人がたくさん出てしまう。
【上久保】欧米ではそうしたメカニズムで、ADEが大量に発生したと推定している。
【小川】欧米でもS型も入っているとみるか。
【上久保】そうだ。S型は2019年12月だから、入っている。
【小川】11月から1月初旬までの3か月だ。
【上久保】その頃は制限も何もないから。アメリカは1月下旬、武漢の閉鎖になった途端に入国を禁じた。この1月下旬はK型の入り始めだ。それを日本は入れたが欧米は入れなかった。その上、アメリカではインフルエンザの流行が強かった。だから、なおさらK型が入りにくかった。
【小川】ヨーロッパでもリスクスコアの危険度が高い地域は、インフルエンザが流行ったところか。
【上久保】そうだ。それでK型が入れなかったところに、大きなROを持つ欧米のG型が微量ながら流入して、爆発することになったと推定する。
【小川】S型の場合、中和抗体ができにくいというのは疫学的な話か。
【上久保】違う。これはスパイクの構造解析でわかる。
【小川】それは実証か。
【上久保】そうだ。構造解析データを、5月2日の「Cambridge Open Engage」に投稿している。
【小川】K型のほうは?
【上久保】これも、解析すると構造上は中和抗体はできない。ところがインフルエンザの流行カーブから見ると、瞬時にインフルエンザを収束させるほどの抑制力がある。ここから,KはT細胞のサイトカインを強力に誘導すると推定される。ここが構造解析と疫学との組み合わせとなっている。
(略)
【小川】日本人が既に中和抗体やT細胞免疫を獲得していることは、検体の上からでなくとも疫学から明らかだということか。武漢で大騒ぎにならなかったら、世界中で無症候のまま多くの人が罹患するだけで、こんな被害を出さずに忘れ去られていったのではないか。
【上久保】それが武漢で気がついてしまった。
【小川】約4千人が亡くなったから。
【上久保】あれは二つの理由が考えられる。武漢ではK型が不十分な時に武漢Gの変異が起こった可能性がある。欧米と同じ原理だ。武漢以外の中国全域はSもKも十分感染した。武漢では恐慌をきたして人々が病院に殺到したため、医療崩壊が起こったから、院内感染の連鎖によって約4千人まで亡くなってしまったのかもしれない。中国に限らず、世界中でもっと実態を公にしてもらわないと病理学的な議論はできない。武漢が騒がずに通常医療で対処していたら、世界でこんな現象は起こらなかったと思う。中国の慌てぶりを見て、世界中も慌ててみんなロックダウンした。だからこんなことが起こってしまった。しなかったら、S型、K型もきっちりと入った。そうすればG型の被害も少なかった。自然の摂理に反する事をした国ほど、大きなダメージを受けた。


【感想】
・日本人に死者、重症者が少ない理由は、「為政者、専門家の不手際」により、打つ手が空振りに終わり、いわば「自然の摂理」に従った(自然のなりゆきのままにまかせた)からだ、という皮肉な結果だった。2020年11月以降、中国からの渡航者によって、弱毒型のS型、K型のウィルスが国内で蔓延(市中感染)したため、強毒型の武漢G型や欧米G型が入って来ても、被害は拡大しなかったということである。特にK型がG型を抑え込むのに有効だったというのが上久保氏らの「集団免疫説」の特徴だと思う。
・一つの疑問は、欧米はS型が入った段階で入国制限をしたのでK型が入らなかった、そこにG型が入ってきたというが、入国制限をしていればG型も入らないのではないか、という点である。それとも欧米の中でS型がG型に変異したのだろうか。
・ウィルスは変異を繰り返すので、2021年2月現在、世界や日本国内で、どのようなウィルスが感染を拡大しているのかはわからない。
・今、現在のこと、今後どうなるのかについて知りたいが、メディアは相変わらず「感染者数」「自宅療養中の突然死」「治癒後の後遺症」「ワクチンの遅れ」等の情報で、不安を煽り続けている。
(2021.2.9)