梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「ここまでわかった新型コロナ」(上久保靖彦、小川榮太郎・WAC・2020年)要約・4・《■BCGも人種も根拠があやふや》

■BCGも人種も根拠があやふや
【小川】有力な専門家が主張するファクターXとして、人種による差があるという説とBCGの接種が自然免疫を高めたという説があるがの、どうか。
【上久保】免疫の基本的なシステムを理解する必要がある。細菌やウィルスなどの病原微生物がからだの中に入ってくると、まず自然免疫、次いで獲得免疫という二段階で免疫反応を起こす。自然免疫は、好中球やマクロファージといった細胞が細菌やウィルスを食べるようなかたちでやっつけようとする。そして樹状細胞と呼ばれる細胞を活性化する。樹状細胞は病原微生物を食べて消化し、その成分を細胞の表面に出して、T細胞と呼ばれるリンパ球に提示する。病原微生物の詳しい情報を知ったT細胞が、集中的にピンポイント攻撃したり、B細胞という抗体をつくるリンパ球に指令を出して、抗体をつくらせる。こうしてT細胞とB細胞の詳細な情報で病原微生物をやっつけるのが獲得免疫だ。
・このような「自然免疫→樹状細胞→獲得免疫」という流れが免疫反応の骨格である。
・BCGは、結核菌の予防のためのワクチンだが、結核菌だけでなく、様々なウィルスなどの外敵を区別することなく非特異的に感染防御する「自然免疫」を上げると言われているが、BCGが新型コロナウィルスに有効だという説そのものは、イスラエルの研究で否定されている。BCG接種の株には日本株、ロシア株、スウェーデン株、デンマーク株など第三世代まであって、株によって有効な株があるという人もいる。その可能性はなきにしもあらずだが、BCGではなさそうだ。オーストラリアは何十年もBCGをやっていないのに死者は少なかった。このところ日本の2.5倍に増加しているが、欧米の死亡率と比べると、一桁低い。株の違い以前に、BCGをしていないのに死者が少ない。フランスやイギリスなど21世紀に入るまでBCG接種をしていた国でも多くの死者が出ている。
・オーストラリアは白豪、ニュージーランドはヨーロッパ系が74%もいるのに感染者は少ない。だから人種も関係ないと思う。人種の問題ではなく、中国と近いところ、沿岸地域というのは全部、死亡者が少ない。
・ブラジルはBCGをやっているが、世界第二位の死亡者数だ。日本で75歳以上の人はBCGをほとんどしていないが、死者数は欧米の(75歳以上の)100分の1程度だ。
・断言はしないが、いろいろと考えると、BCGも人種も関係がないようだ。


【感想】
・免疫の基本的システムは、「自然免疫→樹状細胞→獲得免疫」という流れが骨格である、ということがわかった。なぜ日本人の死者は少ないのか。免疫反応が順調に作用したためと思われるが、では、どのような免疫が有効だったのか、検証されてはいない。むしろ、そんなことよりも、いずれは日本も「欧米、南米のようになるだろう(死者が増えるだろう)」といった危機感が煽られるばかりで、漠然とした不安感からいつまでも抜け出せないでいるのが現状だ。小川氏も上久保氏も、ファクターXを究明するために「調査をどんどんすべきだ」と強調しているが、最近では「PCR検査の陽性者のうち10~20%は無症状者で、その割合は年齢が高くなるほど高くなる」という調査結果があった。だから、「高齢者でも無症者が多い」という(明るい見通しの)結論になるはずだが、無症者でも感染させるリスクが高いので注意すべきだという(見通しの暗い)結論になっていたような気がする。なぜだろうか。不安を煽り、人々が挙ってワクチンを接種するようにするためか。
・いずれにせよ、ここではBCGも人種もファクターXの因子としては「根拠が曖昧」だということがわかった。
(2021.1.23)