梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

乳幼児の育て方・Ⅳ・「抱っこ」「添い寝」はいつまで?

【2歳頃から3歳頃まで】
 結論から申しますと、「抱っこ」や「添い寝」は、お子さんが「もういい」というまで続けるべきです。「抱っこ」や「添い寝」をやめる時期は、お母さんではなくお子さんが決めることなのです。
 「そんなことをしたら、いつまでたってもやめられない」とお母さんは思うかもしれません。それでいいのです。お子さんがいつまでも「そうしてくれ」とせがむ以上、それをしてあげないよりは、してあげる方がお子さんにとってはしあわせなのですから。
 大切なことは、お子さんの気持ちを無視してそれをやめることではなく、どうして「そうしてくれ」とせがむのか、について冷静に考えることです。少なくとも、お子さんはお母さんに「抱っこ」や「添い寝」をしてもらうことによって「心の安定」が得られることがわかります。このこと自体は素晴らしいことであり、どんな子どもでも必ず経験してくることなのです。しかし、問題となっていることは、その時期が他の子どもに比べて遅れすぎているということでしょう。その場合、お子さんが今、次の状態のどちらであるかを見極めることが大切です。①ずっと前から「抱っこ」「添い寝」の習慣が続いており、もう他の子はやめているのに、うちの子はやめられない。②ずっと以前はそういうことはなかったのに、最近になって始まった。
 さあ、お子さんの場合はどちらでしょうか。①の場合は、次のようなことが考えられます。お母さんに「抱っこ」や「添い寝」をしてもらうことによってしか「心の安定」が得られず、もう大きくなってみっともないことはよくわかっているけれど、そうしないわけにはいかない、とお子さんが感じているということ。ということは、お母さんあるいは周囲の人たちがお子さんに「不安」や「緊張」の気持ちを起こさせており、「心の安定」を著しく妨げている場合です。お子さんが現在できること以上の、むずかしいことを無理にやらせようとしていたり、お子さんの相手をしないで放りっぱなしにしていたりすることによって、お子さんの「不安」や「緊張」が高まっている場合です。こんな時、お子さんはいつまでたっても「抱っこ」や「添い寝」をせがみ続けるでしょう。どうしたらよいでしょうか。ただ「抱っこ」や「添い寝」を続けるだけでは不十分です。お子さんの「不安」や「緊張」の原因を取り除くことが必要です。お子さんに対する強制(期待過剰)・放りっぱなし(放任)といった接し方を改めることが必要なのです。まだ他に考えられる原因があれば、それもすっきりと取り除いてあげなければなりません。
 さて②の場合は、やや事情が異なります。つまり、②の場合のようなことがおこることは「とても素晴らしいできごと」なのです。大いに喜ぶべきことだと思います。なぜなら、今、ようやくお子さんはお母さんの素晴らしさがわかりかけてきたからです。今、ようやく、お母さんのことを「なくてはならぬ大切な人」と感じ始めてきたからです。これから、お母さんという「人間」を通して「人間の世界」の様々なことがらを「学ぶ」出発点に立ったということなのです。最近のお子さんの様子を見ると、以前に比べて大きな変化がたくさん見られるはずです。お母さんに甘える、ぐずる、自分でできることなのにやってもらおうとする、わざといたずらをしてお母さんの様子をうかがう、お母さんのすることをじっと見ている、お母さんのすることをマネしようとする、遊んでとうるさくつきまとう、喜怒哀楽の表情が豊かになった。どうですか。あてはまることはありませんか。そうした変化と「抱っこ」「添い寝」をせがむことが、ほぼ同時に始まったとすれば、それはとても素晴らしいことなのです。
 いずれにしても、「抱っこ」「添い寝」は、お子さんの成長・発達にとって必要不可欠の経験なのです。それを早く卒業させたいとお母さんが願うならば、生活の中で様々な楽しい経験をふやし、「抱っこ」や「添い寝」以上の「心の安定」が得られるようにすることが大切だと思います。