梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

乳幼児の育て方・Ⅳ・「おもらし」について

【2歳頃から3歳頃まで】
 お子さんが「おもらし」をしてしまいました。そんな時、お母さんはどんなことを感じますか。また、どんなことを考えますか。「ああ、もうイヤになっちゃう。また洗濯物がふえちゃった。いつになったら教えるようになるのかしら」と溜息がでるかもしれません。「となりの○○チャンは、もうずーっと前に教えるようになったのに」と恥ずかしくなるかもしれません。「やっぱり、ことばがはっきり話せないからかしら」「どこか体が悪いのかもしれない」と心配になるかもしれません。どうすればいいのだろう、放っておいてはいつまでたっても教えるようにはならない気がする、何かいい方法はないかしら、と深刻に考え始めるようになるかもしれません。そうなると、いつもそのことが頭から離れずに「悩みの種」になっていきます。
 さて、どうすればいいでしょうか。まず第一に大切なことは、「おもらし」を困ったことだと感じないことです。「おもらし」は、別にとりたてて変わった(異常な)ことではなく、だれもがすることだからです。むしろ逆に、「おもらし」をしたことをほめてあげる(喜んであげる)ぐらいの気持ちが必要です。なぜでしょうか。よく考えてみると、「おもらし」をすること自体(排尿)はきわめて自然な生理的現象であり、体が健康である証拠です。困ることは、「おもらし」をすることを「前もって教えない」ということなのです。お子さんの立場に立って考えてみましょう。今、おもらし(排尿)をしてしまいました。お子さんの気持ちは決して悪くないはずです。むしろ壮快でしょう。しかし、お母さんがそのことを溜息まじりで心配そうに見つめているとしたら、お子さんはどんな感じがするでしょうか。「ボク(ワタシ)は、悪いことをしてしまったのかな」、そう感じるに違いありません。つまり、おもらし(排尿)の壮快感が、お母さんに罰せられたという不快感(罪障感)に変わってしまうのです。このことは、「おもらし」を「前もって教えるる」ようにさせるためには、一歩後退です。お子さんが「おもらし」をしてしまったのは、「前もって気づかなかったために教えることができなかった」だけなのに、そのことを責められたら、お子さんはどうしてよいかわからなくなってしまいます。
 よく考えて下さい。「おしっこをしたい」という感覚を、お子さんにどうやって教えることができるでしょう。それは、あくまでお子さん自身に「気づいてもらう」ほかはないのです。通常、子どもは「おもらし」を「した後で」、お母さんにそのことを知らせます。それが自然な姿なのです。はじめは、「した後」でなければ「したこと」に気づかないからです。そのことを、お母さんがほめて(喜んで)あげると、子どもは排尿の壮快感とほめられた喜びが重なって、必ず「した後で」知らせるようになります。それが何回か(何日かかるかは子どもの全くの自由です)繰り返されると、今度は「している時」に知らせるようになります。この時も、お母さんがほめて(喜んで)あげると、だんだん「しはじめた時」に知らせるようになります。そうしたことを繰り返しながら、子どもは「おしっこをしたい」という感覚を学びとっていくのです。そして結局は、「する前に」知らせることができるようになります。
 もし、お母さんが心配して何かをすると(罰を与えると)、お子さんはそっちの方が気になって、大切な「おしっこをしたい」という感覚をマイペースで学んでいくことができなくなってしまいます。
 いろいろな方法で、「おもらし」をしなくなるようにさせた例を、お母さんは耳にすることがあるかもしれません。しかし、あまり早くやりすぎて失敗する例が意外に多いのです。しかも、単に「おもらし」が長引くだけでなく、その子の性格・行動面にまで影響を及ぼすことがありますので、くれぐれも注意しましょう。
 「おもらし」をしたら喜ぶぐらいであってほしい。ほめてあげること、そのことによって、お子さんの気持ちの中に「早くお母さんに知らせたい」という気持ちを芽生えさせることが大事なのです。これが「おもらし」を早く卒業させる「コツ」です。そして、「おもらし」をしなくなるまでに要する時間は、お子さんの自由にまかせられており、お母さんとしては「待ちつづける」ことしかできないと思うことが大切なのです。
 最後に付け加えるとすれば、聴覚に障害があることと「おもらし」とは、ほとんど関係がありません。もしあるとすれば、「耳のきこえが悪い」ことが影響して、「人とのやりとり」をする興味・関心が育っていないために、「お母さんに教えようとしない」ような場合です。しかし、そのような場合でも、時期が来れば、ひとりでさっさとズボンを脱いでやってくれるようになるでしょう。