梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

乳幼児の育て方・Ⅲ・お子さんと遊びましょう・Ⅲ

【1歳頃から2歳頃まで】
 お子さんにとって一番大切なことは、「音に対して敏感になる」「音に対して気持ちを集中させる」ということです。しかし、お子さんの前でいろいろな音を出してみたところで、「敏感になったか」「気持ちを集中させているか」どうかはわかりません。「よく聞いてごらん」と言ってもても、「聞く」ということがどうすることかわからなければ意味がなくなります。そこで、「音が聞こえたら何かをする」というルールをつくり、その遊びの中でさまざまな音を聞かせることが有効的です。
 はじめは、音がしたら飛び上がる、音がしたら歩く、音がしたら積み木を積む、というような「今、音がしているかどうか」を聞き分ける遊びが必要です。出す音を大きくしたり、小さくしたりすることで「どの程度の音まで聞こえるか」を観察することができます。また、お子さんによっては小さい音が聞こえにくいのに、大きな音にすると、とても痛く感じる場合があります。普通の人にはそれほど大きい音に感じられなくても、とてもうるさく感じてしまうのです。いろいろな音を出してみて、このくらいの音から聞こえ始め、このくらいの音になるとうるさすぎてしまう、ということを調べ、どの程度の音が一番聞こえやすいかを的確に把握しておくことが大切です。 
 次に、音が出た「数」を聞き分ける遊びも必要です。音の数だけ手をたたく、音の数だけ○を書く、音の数だけ積み木を積む、というような遊びです。これは、単に音を聞き取るだけではなく、「聞いておぼえる力」をやしなううえで重要です。将来、歌をおぼえる時なども、この力が大きく影響します。音をゆっくり出したり、速く出したりすることでリズム感覚をやしなうこともできます。
 次は、いろいろな音を「聞き分ける」遊びです。乗り物、動物の鳴き声、電話のベル、時計の音などを聞かせ、それと同じ絵や写真と結びつけさせるような遊びが考えられます。これは、お子さんにとってとてもむずかしいことなので、まず絵や写真、実物をよく「見せ」たうえで、その音をよく聞かせておくことが必要です。次にその音をテープレコーダーにとっておき、「見せない」で聞かせ、「今、何の音がしたか」を当てさせるのです。 最後は、いよいよ「ことば」を聞き分ける遊びです。昔からある「カルタ」は恰好の材料になります。しかし、それをそのまま使ってもうまくいかないでしょう。絵札だけ5枚くらい並べて、その絵に描かれている「物の名前」を言うのです。「ネコ」「リンゴ」「バナナ」「ボウシ」というように。それができたら。ことばを二つずつ、三つずつというように、「聞いておぼえる力」をやしなうようにします。
 また、絵に描かれている事物の「動作」や「様子」をことばで言って、カルタ取りをすることも大切です。「食べています」「泣いています」「広いです」「大きいです」というように。この時気をつけることは、動詞や形容詞は名詞と違って変化するものであり、お子さんはまだそのことを知らないため、「食べています」と言った時は正しく絵札を拾えたのに、「食べる」「食べた」「食べている」などと言った時には拾えなくなってしまうことがある、ということです。したがって、いろいろとことばを変化させて言い、どんな場合でも正しく拾えるようにすることが必要でしょう。
 以上のことができるようになったら、紙芝居のような大きな場面の絵を拾うことも必要です。紙芝居などは、どの絵も人物は同じなので単語だけ聞いているだけでは、拾い分けることができないでしょう。「誰がどうしてどうなったか。どこでどうしてどうなったか」というような複数の情報を組み立ててその「絵」を思い浮かべなければならず、「聞いて考える力」が必要になります。
 さて、今まで述べたような遊びをするうえで気をつけなければならないことがあります。それは、お子さんがうまくできなかった時どうするか、ということです。結論から言うと、お子さんがそれを「喜んで」「おもしろそうに」やっていれば、「できなくてもいい」(間違えてもいい)のです。それを「喜んで」「おもしろそうに」やっている限り、お子さんは全力を出してやっているのであり、できないのは今の段階ではやむを得ないからです。間違っても、お子さんができないからといって、叱ったり責めたりしてはいけません。それでは「遊び」の意味がなくなってしまいます。
 お子さんにとって「楽しい」経験が多ければ多いほど、「何でもやってみよう」「知りたい」という意欲が増し、自分で学習の機会を増やしていくことができるからです。できなくてもいい、楽しくおもしろくやることが大切なんだ、ということをお忘れなくがんばって下さい。