梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

『「自閉」をひらく 母子関係の発達障害と感覚統合訓練』(つくも幼児教室編・風媒社・1980年)精読・27

《第2部 方法》
《第6章 感覚診断の方法》(鈴木佐江子)
《1.母子関係の評価》
・まず最初に、母子関係がどの程度に育っているかを評価する。そして、母子関係が十分に育ち切っていなことが疑われる場合には、母子関係の発達を阻害している感覚障害が存在しないかどうかの診断に進むのである。
・評価を容易にするために、母子関係評価表を利用してもよい。この評価表は、次の8つの観点について、育っていない、育ちつつある、かなり育っているの3段階(もしくは、中間段階を含めて5段階)に評価する。①対人接触反応、②母親との分離不安反応、③見慣れぬ場所での母親との分離不安反応、④子どもが怖い思いや痛い思いをしたときの反応、⑤表情、⑥人とのコミュニケーション、⑦模倣、⑧社交性。前回の評価から今回までの変化をプロフィルに描くか、変化の要点を簡単に記入しておくとよい。
◆母子関係評価表(A・育っていない B・育ちつつある C/・かなり育っている)
①対人接触反応
A・母親にあまり寄り付かず、むしろ触られるのを避けようとする。あるいは、母親と他人の区別がなく、誰にでも寄って行く。
B・母親にベタベタまつわりつく。母親のすぐそばにいたがる。
C/・母親以外の家族にもなついている。
②母親との分離不安反応
A・母親がいなくなっても平気で、探さない。
B・母親がいなくなると必死に探し回り、再び顔を見ると安心する。(にこっとしたり、泣いて怒ったりする。)
C・日中ちょっとの間なら母親が見えなくなっても我慢できる。
③見知らぬ場所での母親との分離不安反応
A・見知らぬ場所でも、手を放すとどこかに行ってしまう。
B・見知らぬ場所に行くと、母親にぴったりとくっついて離れない。
C・見知らぬ場所に行くと、少し離れて行っては振り返って母親の所在をたしかめる。
④子どもが怖い思いや痛い思いをしたときの反応
A・痛い時、怖い思いをしたような時でもあまり泣かない。逆に一人泣きして、慰めてもなかなか泣きやまない。
B・痛い時、怖い思いをした時など、母親に泣いて訴える。
C・痛い時、怖い思いをした時など、母親に甘え泣きをする。
⑤表情
A・表情に乏しく、泣き声や笑い声も固い。
B・表情が豊かで、元気な声で泣き、笑う。
C・うそ泣き甘え泣きをする。ほめられると同じ動作を何度も繰り返すなど、表情がさらに分化する。
⑥人とのコミュニケーション
A・母親と視線が合わず、呼ばれても振り向かない。
B・母親と視線がよく合い、呼ばれると振り向く。
C・母親以外の家族とも視線がよく合い、呼ばれると振り向く。
⑦模倣
A・母親の動作や発声をまねしようとしない。
B・母親の動作や発声をまねる。やさしい芸をする。
C・母親や他の家族のことばやしぐさをしきりにまねる。
⑧社交性
A・他の子どもといっしょに遊ぼうとしない。
B・母親がそばにいれば、他の子ども(とくに年上の子ども)と遊ぶ(遊んでもらう)のを喜ぶ。
C・日中ちょっとの間なら家から離れて他の子どもと遊ぶ。
【感想】
・「感覚統合訓練」の第一歩はまず「母子関係の評価」から始める、ということがわかった。それは臨床教育(治療教育)の第一歩であり、鉄則でもある。まず、子どもの実態を把握し、その問題点を「整理」「考察」(診断)し、教育の方針・計画を立てるのが、基本的方法だからである。最近は「アセスメント」という言葉が使われ、さまざまな検査が行われているが、その結果を「羅列」して、いきなり「どうすればいいか」という方向に進む傾向が強いように思われる。大切なことは、子どもの問題が「《なぜ》生じているか」、を解明し、その原因を除去しようとすることである。しかし、はじめから原因を究明することは容易ではない。そこで「多分、これが原因ではないだろうか」という仮説を立て、その検証を行うことになる。その作業の繰り返し(試行錯誤)を「臨床教育」(治療教育)
と呼ぶのである。したがって、臨床教育(治療教育)に、先験的な「教育計画」(カリキュラム)は存在しない。子どもの実態によって「千差万別」であり、「縦横無尽」に変化する(してよい)ものだと、私は思う。
・上記の「母子関係評価表」は、「子ども」の実態を見るためには「極めて有効」だと思う。しかし「母子関係」という限り、「母親」の実態も見る必要があるのではないだろうか。著者の鈴木氏は「それは当然、行動観察で・・・」と応えるだろう。また、自閉症の原因は「子どもの感覚障害にあるのだから、母親の実態はそれほど重要視していない」のかもしれない。あるいは、「子どもの実態同様に、母親の実態も重要である。それを評価する観点も持っているが、諸般の事情(母親からの抗議など)から公表しない」ということかもしれない。
・「自閉」という問題と「母子関係」という問題が《関連している》と考えるならば、まず臨床家と母親の「信頼関係」を築かなければならない、とう感想を、私はここでも持ってしまったのだが・・・。しかし、次節はいよいよ「感覚診断の方法」である。期待を込めて読み進みたい。
(2016.4.14)