梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

私家版・昭和万謡集・13・「哀愁海峡」

13 「哀愁海峡」(詞・西沢爽 曲・遠藤実 歌・扇ひろ子)
《寸感》
 以下は今から11年前に見聞した「扇ひろ子ショー」の見聞記である。
 《午後2時30分から、小岩湯宴ランドで「扇ひろ子ショー」を見聞する。会場は超満員、観客のほとんどが「高齢者」、出演者も1945年生まれの「高齢者」とあって、双方の呼吸はピッタリ(阿吽)、たいそう盛り上がった舞台であった。聞けば、扇ひろ子、来年で「歌手生活50周年」を迎えるとか、御同慶の至りである。さて、幕開けの一曲は「花のおんな道」、続けて(トークを交えながら)「哀愁海峡」「東京ラプソディ」「星の流れに」「ろくでなし」「愛燦々」「越前海岸」「修羅の道」「夢路坂」「新宿ブルース」(全10曲)を一気に(1時間で)歌いきった。舞台を降りようとすれば、「アンコール!」の大合唱、再び登場して「哀愁海峡」を熱唱、無事、終幕となった。扇ひろ子といえば「新宿ブルース」だが、その気配は、どちらかと言えば「侠気」、一方「哀愁海峡」は、女の「諦念」が鮮やかに描出されていて感動的である。「おんなの海峡」(都はるみ)、「他人船」(三船和子)、「哀愁出船」(美空ひばり)、「未練の波止場」(松山恵子)、「津軽海峡冬景色」(石川さゆり)なども、同じモチーフの作物だが、それらとは「一味違った」空気を漂わせている、と私は思う。因みに、その歌詞は以下の通りであった。〈①瞼とじても あなたが見える 思い切れない その顔が 赤い夕日の 哀愁海峡 波を見つめて ああ ゆく私 ②私ひとりが 身を引くことが 所詮あなたの ためならば 鴎泣け泣け 哀愁海峡 女ごころの ああ 悲しさを ③せめてあなたも 忘れずいてね こんなはかない 夢だけど 未練だきしめ 哀愁海峡 越えるわたしを ああ いつまでも〉(作詞・西沢爽、作曲・遠藤実)。この歌詞の特長は、最終句で「終わらない」という点にある。最終句の「余韻」が前の句に「戻っていく」のである。①「海を見つめて(ああ)ゆく私」が「瞼とじてもあなたが見える」、②「女心の(ああ)悲しさを」「鴎なけなけ」、③「哀愁海峡 超えるわたしを(ああ)いつまでも」「(せめてあなたも)忘れずいてね」という風に・・・。その(終わりのない)リフレインが、ひとり身を引く女の「未練」を、よりいっそう際立たせる。背景には、海(愛)の深さ、波のうねり(繰り返し)も感じられて、まさに「愛別離苦」の極致が表現されているのである。それかあらぬか、この名曲は、金田たつえ、宮史郎、青木美保、伍代夏子、森昌子らにも受け継がれ、幅広く「人口膾炙」することになった。その原曲、元祖・扇ひろ子の作物を十分に(2回も)「目の前で」堪能できたことは、望外の幸せであった。ここは、大衆演劇の檜舞台、もし、あの名優・見城たかしの(女形)舞踊が添えられていたら・・・、などと身勝手な「夢」をいだきつつ、岩盤浴に向かった次第である。》(2012.12.28)

扇ひろ子 哀愁海峡