梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大衆演劇・劇団素描「劇団駒三郎」(座長・南條駒三郎)

【劇団駒三郎】(座長・南條駒三郎)〈平成24年4月公演・千代田ラドン温泉センター〉
芝居の外題は「祭りの夜」。江戸の大工・政五郎(三好辨太郎)のところに、はるばる信州小諸から老百姓(中村駒二郎)が訪ねてきた。政五郎に嫁いだ娘・おたかに逢うためである。政五郎は義父を温かく迎え、一番風呂でもてなしたが、おたかの姿が見えない。聞けば、材木を仕入れに長旅に出たとのこと・・・。老百姓、留守を頼まれて独り、湯上がりの酒を飲んでいたが、やって来たのが政五郎の弟子・三太(座長・南條駒三郎)。老百姓から進められるままに酒を飲み出した。「そうですか、あんさんは、お内儀さんの親父さん、それにしてもお内儀さんはよくできたお方だ。あっしたちの面倒もいいし、よく気がつくお人、その親父さんがあんさんですか。やあ、すばらしい!」などとほめそやす。老百姓も欣然として「どうです、もう一杯」などとやりとりするうちに、三太は泥酔状態に・・・、大きな声を張り上げて「お内儀さんは、本当にいい人だ。しかし、前の内儀さんはひどかった。あれはとんでもない女だった」。一瞬、耳を疑う老百姓。「今、あんたさん何とおっしゃった!? 前の内儀さん?」「そうだよ」「じゃあ、政五郎さんには前の内儀さんがいたんですか」「いたよ、いたいた」「それは、何という名前ですか」「名前はオ・タ・カ!あれは悪い女だった、どうしようもない女だった。親の顔を見てみてえもんだ」老百姓、見る見る表情を曇らせて「どんなふうに悪いんです?」「どんなふうに?いいか、よおく聞けよ。あの女は親方の留守中に、間借り人の男とできちゃって、逃げてしまったのさ、今頃どこで何をしてるのやら、わかりゃあしねえ」思わず、床からころがり落ちる老百姓の風情は抱腹絶倒、それを見て「俺、何か言った?なんか悪いこと言ったかしら・・・、いけねえいけねえ飲み過ぎた、ああ気持ち悪くなってきた
、オエッ!」などと応える三太の酔態も「絶品」で、久しぶりに見る座長・南條駒三郎の名舞台であった。加えて、二度目の女房・お蔦を演じた若手・駒條まさとの「女形」も、「別品」(男勝りの鉄火肌)で、たいそう見応えのある舞台に仕上がっていた、と私は思う。ただ、政五郎役の三好辨太郎(元「南劇団」座長・南龍弥)は、まだ「思い切り」が足りない。前妻を恨みもせずに、その義父を温かくもてなす「江戸っ子」のいなせな風情の描出が不発に終わったのは、残念であった。
第二部・舞踊ショー、息のあった老優・中村駒二郎と音羽三美が(息を吹き掛け合う)相舞踊は洒脱の極み、今は稀少になった関東風の「至芸」そのものである。加えて、3歳の子役・南條じゅりあの「堂に入った」舞姿も「絶品」で、今日もまた望外の元気を頂いて帰路に就くことができたのであった。
(2012.4.8)