梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大衆演劇・劇団素描「長谷川武弥劇団」(座長・長谷川武弥)

【長谷川武弥劇団】(座長・長谷川武弥)〈平成20年4月公演・小岩湯宴ランド〉
「劇団紹介」によれば「プロフィル 長谷川武弥劇団 九州演劇協会所属 長谷川武弥座長と愛京花座長、そしてほとんどが十代というフレッシュな座員たちが、一丸となって繰り広げる若々しく元気いっぱいの舞台は、まさに大衆演劇界の癒し系」「座長・長谷川武弥 昭和37(1962)年1月1日生まれ。血液型O型。福岡県出身。母に連れられて観に通い、初代・姫川竜之介の劇団に入る。その後、藤ひろしが旗揚げした『劇団ふじ』で二代目・藤ひろしとして座長を継ぐが、平成11(1999)年に独立、『長谷川武弥劇団』を旗揚げ。どんな役柄にでも対応できる引き出しの広さ、リアルで気迫のこもった芝居っぷりが特徴」「座長・愛京花 昭和54(1979)年9月11日生まれ。血液型B型。熊本県出身。両親とも役者の家に生まれ、『司浩二郎劇団』にて初舞台。兄の司京太郎が『司京太郎劇団』を旗揚げした際、そちらへ移る。平成14(2002)年『長谷川武弥劇団』に入団し、平成18(2006)年9月、座長となり、長谷川武弥とともに、二枚看板で劇団を背負う。幅広い役柄をこなす、才色兼備の実力派女優」とある。またキャッチフレーズは「アットホームな愛ある劇団。元気はつらつの座長と、若手揃いの座員が力を合わせてお送りするにぎやかで楽しい舞台。舞台も楽屋も、いつも明るいアットホームな劇団です。芸達者な長谷川武弥座長と美しく存在感のある愛京花座長とのコンビネーションも絶妙で、二人を中心に劇団のチームワークも万全」ということである。座員は長谷川光太郎、長谷川翼、長谷川京也、長谷川乱之助、長谷川桜、長谷川舞、長谷川姫花、長谷川桔梗、長谷川未来(子役)、長谷川一馬(子役)、長谷川しおん(子役)、長谷川愁太郎(子役)、座長を合わせると総勢14名という「大劇団」である。 まず第一印象は、昼も夜も「大入り」、公演五日目にして早くも「盤石の人気」を「勝ち取って」いるようだ。キャッチフレーズどおり、武弥座長と京花座長の「コンビネーション」が「絶妙」で、「にぎやかで楽しい舞台」が展開されていた。芝居の外題は「死んでたまるか」。ある大店の若旦那(京花)は、商売の修業と称して江戸にやってきたが、実際は「芸者遊び」の放蕩三昧、威勢よく大金を「ぶん蒔いて」なじみの芸者(長谷川桜?)からたしなめられる。その「誠」に、ますます「執心」する若旦那。そこへ、大店の番頭(武弥)がやってきた。「旦那様から、いいつかって参りました。もう若旦那に届けるお金はありません。私とお店に帰りましょう」若旦那「いやだ、私は商いの勉強をしているんだ。お金を使うのも修業の一つ」「何を、身勝手なことを!このままだと勘当になりますよ」「それなら、条件がある。なじみの芸者と一緒なら帰ってもいい」「芸者など連れて行くわけにはまいりません」「それなら、帰らない」「芸者なんて、所詮は売り物に買い物、若旦那にお金がないとわかったら、見向きもされませんよ」「そんなことはない」「では一つ、試してみましょう」「どうやって?」「若旦那から、その芸者に心中を持ちかけるのです。ここに私の胃の薬があります。これを『毒薬』と偽って、酒の中に入れ、一緒に飲もうとするのです。もしその芸者が一緒に飲めば、私は信用します。一緒に連れて帰りましょう」(といって、番頭退場)若旦那「よし、わかった!」と、件の芸者を呼び寄せる。経緯を説明し、「一緒に死んでくれるかい?」。芸者、平然と「もちろんですとも、若旦那と一緒ならどこだってお伴します」「そうら見ろ」と、得意満面の若旦那、「では、この酒に毒薬を入れて、一、二の三で飲み干すのだ」「何という毒薬ですか?」「そんなことは知らない。毒薬は毒薬だ。それ、一、二の三!」若旦那は一気に飲み干したが、芸者は(一瞬、酒を振り捨て)飲む仕草だけ・・・。若旦那、毒が回って「七転八倒の」苦しみ、やがて動かなくなった。芸者、「ふん、こんなバカ旦那と死ねるもんか!いい金蔓だと思っていたが、死んでしまいやがった」そこへ、芸者の間夫(長谷川京也)登場。歌舞伎役者然という、いでたち、化粧、口跡で、「浮いた」演技が、爆笑を誘う。
したたかな芸者と間夫のコンビネーションも「絶妙」、退場間際、芸者が放つ「最後っぺ」(放屁)の景色は、〈そこまでやるか〉と感じるほどだったが、間夫の一言「えげつない」で救われた。まさに「にぎやかで楽しい」舞台のクライマックスではあった。以後、番頭と若旦那は「幽霊芝居」で復讐を試みるが、したたかな芸者コンビには通じないまま閉幕、若旦那は「バカ旦那」のまま終わるという「教訓的な」芝居だった。
 芝居に比べて「舞踊」は「やや単調」、役者一人一人の「実力」は「水準」以上なので、まだ「出来映え」を評価することはできない。いずれにせよ、「人気」「実力」「財力」の三拍子揃った「本格派劇団」であることは間違いないだろう。
(2008.4.10)