梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「ここまでわかった新型コロナ」(上久保靖彦、小川榮太郎・WAC・2020年)要約・12・《■コロナのウィルス干渉でインフルエンザが激減》

■コロナのウィルス干渉でインフルエンザが激減
【上久保】結論から言うと、日本は大半が感染し終わって、免疫を持っているという状況になってから久しいと考えている。なぜそう言えるのか。我々はGISAIDを解析して、変異が世界でどういう風に展開してゆくかを明らかにした。当初、中国の研究者が、祖先型のSと発展型のLという変異を指摘していた。GISAIDでの詳細が明 らかになったので、我々は、それを解析して、S型からK型への展開を明らかにした。
【小川】先生方が遺伝子情報の変異に対してSとかKとか名称を付けたということか。
【上久保】そうだ。初期型をS型、日本のインフルエンザ流行曲線が大きく欠ける事態を生じさせたK型、世界に拡大した変異をG型と命名した。変異の展開を説明する。
・中国や日本などは、すべてS型とK型でまず集団免疫に達していたが、そこで武漢にG変異が起こった。武漢でパニックが起きたのは、武漢のG変異だ。だから、順番としては、S型、K型、武漢G型、欧米G型となる。日本では海外からの渡航者が途切れないまま、段階的にすべて感染者数が上がっていって集団免疫に達したため、被害が少なかった。逆に欧米ではK型が入らなかったため、免疫の達成に大きな問題が生じて被害が拡大した。大きく言うとそういう考えだ。
【小川】なぜ、そういうメカニズムが明らかにできたのか。
【上久保】インフルエンザの流行カーブとの相関性を見出したのがきっかけだ。日本では2019年から2020年の春にかけてのインフルエンザ感染が例年に比べて圧倒的に少なかった。図表を見ると、インフルエンザの流行カーブは12月23日の週に小さくくびれている。これはS型が入ってきた時のウィルス干渉だと考える。ウィルス干渉とは、複数のウィルスが同じ人、細胞に感染しようとしたときに、ウィルスの増殖を互いに抑制し合おうとする現象を指す。いずれかのウィルスが受容体を占領したり、破壊したりすることで、それ以外のウィルスが吸着できなくなることもあるし、どちらか一方のウィルスが感染して、それによって獲得されたT細胞免疫によりサイトカインが放出され、他方が感染できずに排除されるという事もある。そうした一連の仕組み、メカニズムが「干渉」だ。
【小川】それは定説か、新しい説か。
【上久保】インフルエンザとコロナのウィルス干渉については、マウスでは知られている。また、インフルエンザとRSVとライノウィルス等のウィルス干渉は知られている。インフルエンザとヒトのコロナウィルスの間でのウィルス干渉はまだ報告がない。我々が初めて疫学的に証明していると思う。
【小川】インフルエンザのくびれがウィルス干渉である事、そうした相関性が新型コロナとの間で生じているというのは仮説に過ぎないという批判がある。その点についてはどう考えるか。
【上久保】コロナウィルスは、その多くが無症候者間の感染だから、いつ上陸して、どう展開したかは、他の方法では追跡しようがない。暗中模索の状況に対して、インフルエンザとの相関性を利用して一定の手がかりを与えようとしたのが私たちの方法論だ。
【小川】無症候感染症の追跡に世界中で定点観測の存在するインフルエンザの感染曲線を利用する、そこに着目しただけでも大きな科学的前進のように思える。日本のインフルエンザ曲線では2度、このくびれが起こっている。
【上久保】二つのくびれを感知することが可能だ。S型が12月23日の週に多く入った。その次に、1月10日、13日の週に大きく抑制されているというパターンに、どの都道府県もなっている。充分にこのS型が入って、最初からインフルエンザの山が低く抑えられて、そこにK型が入ったら、感染拡大を示す面積は最も小さくなる。逆に最も多かったのは北海道だ。北海道は当初コロナが抑制されにくかった。
【小川】インフルエンザの感染曲線は、通常だとこういうくびれはないのか。
【上久保】通常はこうならない。ただし、今回のようなパターンはおそらく約10年に1回の頻度で起きていると考えられる。


【感想】
・インフルエンザの感染曲線から新型コロナの感染状況を推察する理論は、ヒトに関しては「仮説」に過ぎないが、それを「実験」によって検証できないのが残念だ。「日本人はすでに新型コロナに感染しており集団免疫が獲得されている」という考えは大胆でありユニークだ。それが「正しい」と評価されるためには、どのような方法、手続きがあるのだろうか。逆に「誤りだ」という時は、インフルエンザの感染曲線とコロナウィルスには相関性はないということを証明すればいい。今回、インフルエンザが流行しなかった理由を、根拠を示して説明すればいい。しかし、そのために手間や時間をかけるのは無駄だと「無視」「黙殺」を続けているのが、専門家の現状ではないだろうか。
・まずS型のウィルスが入り、次にK型が入って集団免疫が達成された。その後で、武漢G型や欧米G型が入ったが、集団免疫により撃退され、被害は世界の十分の一程度に収まっている。その「事実」で「仮説」の正しさが証明されるということにはならないか。いずれにせよ、「上久保ー高橋」説によれば、日本はすでに「集団免疫」を獲得しているので、これ以上の感染拡大、「重症者」「死者」の増加はないだろうということであった。しかし、2021年1月現在、「重症者」は1000人程度おり、死者は1日あたり100人前後で増加している。その状況をどのように説明するのだろうか。 
(2021.1.29)