梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「本当はこわくない新型コロナウィルス」(井上正康・方丈社・2020年)通読・19《過大評価されて混迷を深めるPCR検査》

■過大評価されて混迷を深めるPCR検査
・PCR検査はRNAウィルスの感染力などとは無関係に、遺伝子の断片を大幅に増幅して超高感度で検出する方法だ。遺伝子の断片を検出できる画期的な検査だが、実施には操作に習熟したスタッフが必要であり、感度と特異度で大きな問題がある。感度が低ければ感染者を見逃すことになり、高まればわずかな断片の混入でも陽性と判定されてしまう。発症もしていないし、他人に感染させる恐れもない人まで“感染者”としてしまう可能性がある。PCRの陽性はRNA断片の存在を意味するが、感染や感染力の有無を意味するものではない。
・コロナウィルスのPCR検査では、ウィルス遺伝子の特徴的な一部を鋳型(プライマー)とし、これを大幅に増幅して検出している。このプライマーをどのように設定するかはPCR検査の本質的な部分だが、大半の検査ではこの情報は公表されていない。このような状況でPCR検査を無症状者まで適用拡大すると、多くの偽陽性(陰性なのに陽性と判定されること)や偽陰性(陽性なのに陰性とされること)などの問題で大きな混乱を招く。
・もし1億人以上の無症状の国民をPCR検査すれば、数千万人もの偽陽性や偽陰性が出ることになる。これでは検査した意味がなくなり、莫大なコストが無駄になる。
・最近では全自動PCR検査装置が日本で開発されたので、次の波では必要な場合に十分な数を検査できる体制は整備可能と思われるが、PCR検査幻想に翻弄されないことが大切だ。


■日本ではCT検査の活用が有効!
・日本ではCT検査(コンピュータ断層撮影法)を活用したほうが効果的で正確な診断が可能になる。日本の病院には肺の画像診断が可能なCT画像装置が多く整備されており、その総数は世界の30%近くにのぼる。この診断装置はウィルス性の間質性肺炎を診断するためには大変すぐれた装置である。
・新型コロナウィルスの場合、すりガラス状の所見が認められるが、それは肺の血管に血栓が生じることによる画像だ。
・発症して感染が疑われる人には、まずCT検査を実施し、間質性肺炎様の画像が認められた場合に、コロナウィルスによるものか否かをPCR検査で判定するほうが現実的である。
・無症状の人は基本的に検査をする必要はない。症状が出たときにCT検査を実施し、間質性肺炎の像が認められればPCR検査を実施する方法であれば、PCR検査数は劇的に少なくてすむ。日本ならではの診断スタイルを確立することができる。


【感想】
・PCR検査には様々な問題点が指摘されているが、相変わらずPCR検査を「診断検査」として使用している。厚生労働省のホームページでは、連日、PCR検査実施人数、陽性者数、入院・治療等を必要とする者の人数(有症者数)、そのうち重症者数、死亡者数、退院者数等が公表されている。1月12日現在、検査実施人数は累計600万人弱(5942315人)で、そのうち陽性者は累計30万人弱(292212人)、そのうち有症者は、現在6万人強(61597人)、そのうち重症者は現在881人という数値だ。つまり、検査を受けた者は国民の約5%、陽性者はそのうちの約5%、さらに有症者はそのうちの約20%、重症者はそのうちの約2%に《過ぎない》ということがわかる。
・つまりPCR検査によって《感染者》とされた者が30万人いるが、そのうちの80%は「無症者」なのである。しかし彼らは《感染者》として扱われる。その不都合さが「医療崩壊」などにつながるのではないか。
・有症者は6万人強、重症者は881人、死亡者は累計4094人(致死率1.4%)という数値に注目すべきだが、為政者も専門家もマスメディアも《感染者数》の増減ばかり
を取り沙汰している。この数値を、インフルエンザの有症者1千万人、死者1万人と比べれば、全く《問題外に少ない》ことがわかる。にもかかわらず、今「緊急事態宣言」が出されて、国民はまたまた不自由な生活を強いられている。それはいったいなぜなのか。
・著者は、高齢者等の「免疫弱者」に対するケアを最重要視しているが、当然だ。致死率1.4%だから、今後、有症者6万人強のうち850人程度が死亡するおそれがある。現在、重症者は881人だから、その人たちに対するケアを最優先しなければならない、と私も思う。
・著者はまた、①症状がない者は検査する必要はない。②症状が出たときはまずCT検査を。③その結果に基づいてPCR検査を。という診断スタイルを提唱しているが、医療現場は耳を傾けるべきだと思った。
(2021.1.14)