梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

安倍首相・真珠湾スピーチの「空虚」

 昨年末の28日、 安倍首相は真珠湾を訪れ「全ての、米国民」に対して哀悼の演説を行った。その内容はおおむね以下のように要約されるだろう。
①(“リメンバー・パールハーバー”という米国民の感情に寄り添い)日本国総理大臣として「哀悼の誠」を捧げる。
②敗戦後、日本人は「不戦の誓い」を貫き、その「不動の方針をこれからも貫いて」いく「決意」である。
③米国は、日本人に対して「善意と支援の手」「寛容の心」を示してくれた、そのことは子孫に語り継ぎ忘れることはない。
④今、私は「オバマ大統領と共に、世界の人々に対して」「和解の力」を訴えたい。
⑤世界は「戦争の惨禍を」「いまだに」繰り返し、「憎悪が憎悪を招く連鎖」はなくならない、今こそ「寛容の心、和解の力」を必要としている。
⑥日米同盟は、そのことを「世界に向かって訴え続けていく任務を帯びている」『希望の同盟』である、
⑦パールハーバーは「寛容と和解の象徴」である、世界中の人々がそのことを記憶し続けてくれることを願い、そのための努力を続けていくことをオバマ大統領とともに誓う。


 はたして、安倍首相はこの内容を「理解」しているのだろうか。《自分で何を言っているのかわかっているのか》とは、ドラマなどでよく聞かれるセリフだが、それがピッタリ当てはまるようなスピーチであった、と私は思う。まず第一に、〈②敗戦後、日本人は「不戦の誓い」を貫き、その「不動の方針をこれからも貫いて」いく「決意」である。〉は《嘘》に等しい。安全保障関連法案で自衛隊の武力行使を容認し、憲法改正を悲願としている安倍首相の言葉とは思えない。日頃、口にしている「テロとの戦い」も放棄し、テロリストに対しても「不戦の誓い」を貫くのであろうか。安倍首相の言う「世界中の人々」にテロリストは含まれいないのだろうか。・・・まさに「言行不一致」の典型である。第二に、再三、同席者のオバマ大統領を名指し「オバマ大統領とともに」という文言を繰り返しているが、大統領の任期はまもなく終わる。その大統領「とともに」誓ったとしても、その誓いは「期限切れ」になることは必定である。安倍首相は自らを「日本国総理大臣」と名乗っているのだから「米国大統領とともに」と言わなければ意味がない。はたして、次期大統領とも《ともに》誓うことができるのだろうか。それとも次期大統領に「寛容の心、和解の力」を求めるメッセージだとでも言うのだろうか。・・・まさに曖昧模糊とした「政治家特有」の文言なのである。
 ことほどさように、安倍首相の演説は《空虚》であった。もし「不戦の誓い」を貫くのであれば、「日本国憲法では、永久に戦争を放棄している。したがって、いかなる武力紛争にも加担しない。憲法第九条こそが『寛容と和解の象徴』である。」ことを表明するべきであった、と私は思う。(2017.1.1)