梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

私家版・昭和万謡集・15・「川は流れる」

15「川は流れる」(詞・横井弘 曲・桜田誠一 歌・仲宗根美樹)
 《寸感》  
   横井弘には「川は流れる」(1961年・昭和36年、曲・桜田誠一、歌・仲宗根美樹)、「ネオン川」(1966年・昭和41年、曲・佐伯としを、歌・バーブ佐竹)という名品もあった。この二作は昭和女の哀しみ(うつろい)を前・後編で描いた逸品である。都会に出てきた少女が「ささやかな望み破れて 哀しみに染まる」「ある人は心つめたく ある人は好きで分かれ」た。「人の世の塵にまみれて」も「嘆くまい あすは明るく」生きようとしたのだが・・・。数年後、少女は「いつか知らずに流されて」「泥にまみれた」「ネオン川」に(飲食店員として)たどり着いた。今では厚い化粧、華美な衣装で身を隠し、以前と同じように「義理に死んでく人 金に負けてく人」との出会いを重ねている。「いくらまごころ尽くしても 信じられずに諦めた 恋はいくたびあったやら」・・・。それでも昭和女はあきらめない。「おとぎ話の夢だけど、晴れて素顔に戻る日を抱いている」のである。その健気さに、私は心底から感嘆する。(2019.2.11)

仲宗根美樹/川は流れる