梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「法華経 現代語訳 全」(三枝充悳・第三文明社・1978年)精読・8

《第二章 方便品》

【要点】
・(中略)
・「舎利弗よ、多くの仏は、つぎの五つの汚れが満ちている悪い世代に出現なさった。その五つとは、時世が堕落したとき、煩悩がさかんなために堕落したとき、生あるものたちが堕落したとき、まちがった見解のために堕落したとき、寿命がみじかくなって堕落したときである。舎利弗よ、時世が堕落して乱れたときには、生あるものは汚れが重く、ものおしみをして貪り、嫉妬深く、多くの不善根をなしとげるが故に、多くの仏は教化の方法の力をもちいて、ただひとつの仏の乗りものがあるだけなのに、それを分別して、三つの乗りものを説かれた。
・舎利弗よ、もしわたくしの弟子のなかで、みずから聖者である、辟支仏であると称しているもののなかで、多くの仏・如来は、実はただボサツだけを教化したもうのだということを聞かず、知らないならば、これは仏の弟子ではないし、聖者でもないし、辟支仏でもない。
・また舎利弗よ、多くのビク・ビクニで、自分自身すでに聖者の域に到達でき、二度と生まれかわることのない最後の境遇である、究極のニルヴァーナであると称して、もはや無上の正しいさとりを志し求めることがないならば、このものどもはみなこれ思いあがった慢心をいだくひとびとである、とまさに知るべきである。なぜかといえば、もしビクであって、実に聖者の域に到達できたものがいて、もしも(仏からこの法をききながら、しかも)この法を信じないというならば、この道理はあり得ない。ただ仏がすでに入滅されたあとで、眼前に仏がおられないという場合だけは例外である。なぜかといえば、仏が入滅されたあとでは、このような経を保持し、読誦して、その意義を理解しうるものというこういうひとびとは、めったに得がたいからである。もしもそのほかの仏に出会うならば、この説かれた法のなかで、すなわち決定することができるであろう。
・舎利弗と、なんじたちは、必ず心を一にして信じて理解し、仏のことばを保持しなければならない。多くの仏・如来のことばには虚妄(いつわり)はない。それ以外の乗りものは存在しないで、ただひとつの乗りものが存在するだけである。」


・そのとき、世尊は、再び重ねてこの意義を宣べようと欲して、つぎの詩を説かれた。
「ビク・ビクニで、思いあがった慢心をいだくものがある。(略)このような四衆たちは、その数が五千あった。(略)このような智の少ないものたちは、すでに集まりから出て行った。(略)このひとびとは善い福徳が少なくて、この法を聞くのにふさわしくないからである。
・舎利弗よ、よく聴きなさい。仏たちが得たところの法を、量り知れないほどの教化の方法の力をもって、生あるものたちのために説かれるのである。生あるものが心にじっと思いつめているところと、種々さまざまの修行するところの道と、いくらかの現在もっている欲望と、過去に身につけた性格と、先世の善と悪との業(おこってきた結果の総体)とを、仏はことごとくこれらを知りおわってから後に、さまざまないわれとたとえと、ことばと教化の方法の力をもって、すべてのものを喜ばせるのである。あるいは経典(スートラ)と、詩句(ガーター)と、昔話(イディヴリタカ)と、前生物語(ジャータカ)と、奇蹟(アドブタダルマ)とを説き、またいわれ(ニダーナ)と、たとえ(アウバムヤ)と、歌謡(ゲーヤ)と、論議(ウバデーシャ)との九つを、仏は説かれた。素質がにぶくて、小さな法を喜び、生死のことがらにむさぼり執着して、多くの量りしれないほどの多数の仏がおられるのに、奥深いすぐれた道を行じないで、多くの苦に悩み乱されている、こういうひとのために、仏はニルヴァーナ(涅槃、絶対の平安)を説かれた。わたくし(仏)は、この教化の方法をもちいて、仏の智慧に入ることができるようにさせた。いままでになんじらは、必ず仏道を成就することができるにちがいない(という道)は説かれたことがなかった。その道を未だかつて説かなかった理由は、それを説くときが、まだ、到来していなかったからである。ところで、いまはまさしくそれを説くべき時期に遭遇している。いままさしくそれを説くべき時期に遭遇している。いままさしくその時期に、真実に確実な大乗を説こう」


【感想】
 「法華経」は《大乗仏教の王者》と言われているが、ここでは、釈迦牟尼仏が舎利弗に向かって、大乗仏教を信じることこそが仏道(仏の智慧)に入るための《唯一》の道あることを強調しているように感じた。小乗仏教で救われるのは一部のエリート(出家者)に過ぎないが、大乗仏教は「生あるもの」(生物)すべてを救うことができる、ということであろうか。では、その内容はどのようなものなのだろうか。ここまでのところでは、まだわからない。
(2019.8.19)