梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大衆演劇・劇団素描「劇団悠」(座長・松井悠)

【劇団悠】(座長・松井悠)〈平成25年1月公演・横浜三吉演芸場〉
表看板には、座長・松井悠の他に、高橋茂紀、藤田心、きぶし、北斗、田中勇馬、下町夢之丞、萩原なおと、高野花子、緋桜忍、成田美ゆり、北城竜、といった名札がかかっていた。座長の松井悠は「和悠斗改め」、ということだが、あのNHK大河ドラマ「風林火山」(2007年)で北条氏康役を演じた松井誠の息子である(当年とって26歳?)。本日の芝居は特選狂言「花のあと」。座長みずから台本を書いた由、期待に胸ふくらませて開幕を待ったが、第一部は「舞踊ショー」。幕開けは座長中心の民謡メドレー(河内音頭・ソーラン節等々)、続いて「ホレました」(勇馬、なおと)、「海よ海よ」(北斗、夢之丞)、「柳瀬ブルース」(きぶし)、「アメージングブルース&逢いたくて」(座長・女形)、「おふくろさん」(藤田心)、「雨に咲く花」(茂紀、夢之丞)、「人生しみじみ」(座長・女形)、「おんな港町」(座長、美ゆり、忍)、「一本〆」(座長、他)、「人生男節」(茂紀)「富士」(花子)「夢の浮橋」(座長・女形)、「ラストショー・ズンドコ節」まで、全15曲を踊り通したが、印象に残ったのは座長の女形、高野花子、成田美ゆりくらいであったろうか。さて、いよいよ特選狂言と銘打った「花のあと」。幼馴染みの加代(16歳・座長)と喜平(庄屋の次男坊)の悲恋物語である。加代は、母・しげと二人暮らしだが(しげが病弱のため)、家は貧しく年貢が納められない。吉原に身売りすることを決心、喜平もまた江戸の呉服問屋に奉公して自分の店を持つことを夢見る。離ればなれになった二人は、5年後に加代がつとめる遊郭で再会・・・、といった筋書きだが、喜平役、加代の朋輩・おつるちゃん・おかめちゃん(ともに男優)、雛菊姉さん(美ゆり?)らの「脇役陣」が、「力不足」で、興ざめな場面の連続であった。座長自身、口上で「今日は女形の芝居、冒頭は16歳の娘役、恥ずかしい」と述べていたが、娘時代の方が秀逸、花魁になると、なぜか風情が生硬で、精彩が感じられなかった。まだ(自作の)「台本」に「ついて行けない」感は否めない。喜平のお店が「左前」、身請けが叶わなくなり、やむなく二人は心中の道行きへ、と舞台が回ったところで、こちらも(やむなく)退散、まことに残念な結果になってしまった。とはいえ、座長の父は斯界の実力者、その直弟子(嫡男)として必ずや(「捲土重来」を期した)珠玉の舞台を見せてくれるだろう、と念じつつ片道2時間の帰路に就いた次第である。ああ、シンド・・・。
(2013.1.20)