梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

あるカップルの若者へ

 駅の改札口を出ると、テーマパークに向かう道は若いカップルでごった返していた。手をつなぎ、笑顔を交わしながら歩を進めている。しかし、その流れに遅れて最後尾を歩くカップルがいた。小柄な女性が跛行している。男性は寄り添いながらゆっくり、ゆっくり歩いている。近道の歩道橋は避け、遠方の横断歩道へ向かった。女性の表情は凜としていたが、男性はどこかぎこちなく、鬱屈していた。まもなく彼らの姿は見えなくなった。そのまま目的地に向かおうとも思ったが、どうしても気になる。あの二人は無事に来るだろうか。私は二、三百メートル先、道路の対岸で彼らを待ち受けた。数分後、彼らはやって来た!。その姿が見えたとき、私は心の中で男性に呼びかけた。「若者よ、今、私たちが必要としているのは、あなたの感性だ。絆のお手本を見せてくれてありがとう。最後方でもよい。顔を上げて胸をはれ。どのカップルよりもあなたたちは輝いているのだから・・・」。その話を聞いてある人が言った。「その男性は、状況から見て、外出支援のヘルパーさんに違いない」。本当にそうだったのだろうか。(2015.4.24)