梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

私の戦後70年・階段のある川

 鬱蒼とした森の茂みの中を一本の小川が流れている。辺りは静まりかえり、水音だけがサラサラとオルゴールのように聞こえる。両岸は竹笹やイヌワラビが生い茂り、その脇のの小道を上流へと進むうち、川の中に段差(堰)が現れた。透明な水が、滝のように流れ落ちる。また進むともう一つ、さらに進むともう一つ・・・というように段差は繰り返し現れる。その景色こそが、「私の戦後70年」の原風景である。それは久しく夢の中でしか見ることができなかったが、つい最近、現実の風景として確認することができた。静岡市服織から洞慶院へと辿る道、異国で病死した母の遺骨を、祖母に背負われ納めに行く途中であったのか・・・。当時の私は二、三歳、記憶に残るはずもないのだが、その原風景は、階段のある川として、意識の深層にしっかりと刻み込まれていたのである。爾来70年、その川から生まれた蜉蝣のように、私の人生も終わろうとしている。(2015.3.15)