梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大衆演劇・劇団素描「劇団扇也」(座長・三河家扇弥・仁蝶拓也)

【劇団扇也】(座長・三河家扇弥、仁蝶拓也)〈平成21年7月公演・千代田ラドンセンター〉                                                                     午後1時過ぎに劇場到着。芝居の外題は「新・弁天小僧菊之助」だったが、開演は12時30分とのことで、入館直後の舞台は、例の「知らざあ言って聞かせやしょう。浜の真砂と五右衛門が・・・」という名調子が始まるところ、客席はとみると、これがほぼ「大入り満員」という状態で、先月とは大違いだった。しかも、今日は平日、なるほど、レベルの高い劇団の時には客は集まる者だと妙に感心してしまったが、幕間口上の話(座長・仁蝶拓也)がよかった。「今日は、こんなに沢山お集まりいただいて、いったいどうなってしまったんでしょうねえ。いつもはもっとお客さん少ないのに・・・」(実際は、老人クラブの予約団体客で埋め尽くされていたのではないだろうか)
 実を言えば、この劇団、私は今から2年前(平成19年11月)、今はなき「立川大衆劇場」で見聞している。当日は、三河家扇弥座長の誕生日ということで「紅白饅頭」を頂戴したことを鮮明に憶えているのだが、それ以外のことは忘失した。「劇団紹介」によれば、〈劇団扇也 平成17(2005)年9月に赤城センター(群馬県)にて、三河家扇弥座長と仁蝶拓也座長の二枚看板で旗揚げ。劇団名は各座長から一文字ずつ取り名づけられた。旗揚げ後は、それぞれが持つ、しなやかさと力強さの両面を生かしながら、関東を中心に公演を続けている。少人数ながら、全員が力を合わせ熱い舞台で観客を楽しませている。所属はフリー。 座長 三河家扇弥 昭和32(1957〉年11月18日生まれ。福岡県出身。血液型O型。初舞台4歳。「劇団扇也」座長を仁蝶拓也座長と共に務める。お芝居における、歯切れのいい台詞回し、経験豊かないぶし銀のたしかな演技で一座を引き締めている。舞踊ショーで観せるしなやかな女形は必見。座長 仁蝶拓也 昭和46(1971)年10月20日生まれ。宮崎県出身。血液型AB型。初舞台18歳。「劇団扇也」座長。18歳のとき、地元で舞台に出ているうち、地方公演などに誘われて役者の道へ。豪快な立ち役や、ショーでの妖艶な女形に人気が集まっている〉ということである。また、キャッチフレーズは〈二人の座長が華麗に魅せる舞台 「劇団扇也」、その名は両座長の名前から一文字ずつが取られ付けられた。しなやかさと力強さの両面を持ち合わせ、両座長が「あ・うん」の呼吸で、メリハリのある舞台を繰り広げ、観客を魅了し続けている〉であった。座員は男優・扇勝也、扇進也、女優・扇亜弥、扇たまと、扇久美江、特別出演・澤村新之介といった面々で、まさに「役者は揃っている」。聞くところによれば、三河家扇也座長は、「鹿島劇団」・鹿島順一座長とは旧知の間柄、今でも年に何回かは「酒を酌み交わす」という。「芝居をおろそかにしない」「芸風は《実力勝負》で地味な」「座長の歌唱も魅力的な」ところなど、いくつかの共通点も感じられる。劇団は、まさに「二枚看板」、それぞれの座長が、「しなやかさ」と「力強さ」のいずれを受け持つか、私見によれば、ベテラン・三河家座長は「仇役」「三枚目」に徹し、若手・仁蝶座長が「しなやかさ」「艶やかさ」を強調する景色が描出できれば、いっそうの飛躍が期待できるだろう。 三河家座長、ほぼ満員(老人クラブの団体予約客か?)の客席に向かって、「(私は)さっきの芝居で仇役をやった親分ですよ。『60歳以上は、賞味期限切れ』などと失礼なことを言ってごめんなさい。私を見る眼が、みな怒っているんです。でも台詞がそうなっているんだからしょうがない。どうかゆるしてくださいね」だと・・・。その場面、私は見聞していなかったが、ほぼ高齢者で埋め尽くされた観客席、その怒りがおさまらない(どことなく無反応な空気だった)とすれば、まさに「迫真の舞台」であった証しとなるだろう。近日中に再来しようと心に決めて帰路についた次第である
(2009.7.8)

大衆演劇・劇団素描「劇団 新」(座長・龍千明)

【劇団 新】(座長・龍千明)〈平成20年7月公演・小岩湯宴ランド〉
 劇団紹介」によれば〈プロフィール 劇団新 東京大衆演劇劇場協会所属。昭和61(1986)年10月、龍千明が座長として「劇団炎」を旗揚げし、その後、平成5(1993)年1月1日、「劇団新」として再出発した。座長が1年半ゲスト時代に出演した劇団からいいところを吸収して「劇団新」のカラーが生まれた。座長のオリジナル狂言は100本以上もあり、演歌の歌詞に触発された現代物のお芝居も多数ある。 座長 龍千明 昭和35(1960)年5月15日生まれ。血液型AB型。山口県出身。「劇団新」座長。初舞台3歳。昭和61(1986)年10月、26歳で「劇団炎」を旗揚げし座長となる。5年間活動するが、一時休止。その後1年半ゲストとして各劇団に出演。そして平成5(1993)年1月1日、「劇団新」として再出発。龍新(りゅう・あらた) 平成3(1991)年3月2日生まれ。血液型B型。埼玉県出身。「劇団新」花形。初舞台0歳。龍千明座長の長男。将来「劇団新」を担う逸材で、これからの成長が楽しみ。美しい女形と派手で柔軟な立ち役で、人気上昇中。〉とある。また、キャッチフレーズは〈オリジナルの芝居にこだわる劇団。他では見られない座長オリジナルの狂言の数々。若手とベテランがうまく絡み合った舞台をじっくりとお楽しみください。〉であった。昼の部、芝居の外題は「兄弟鴉 瞼に浮かぶ母」、〈瞼の母〉の忠太郎が「新三郎」(花形・龍新)と名前を変え、新三郎には「弟」(子役・龍錦、好演)があったという筋書き。そのあたりがオリジナル狂言という所以だろうか。出来映えは「水準並み」、いかにも「関東風」という風情で、敵役の親分夫婦(龍千明、立花智鶴)の「やりとり」には「いい味」が出ていた。座長・龍千明の役柄は、敵役で三枚目だが、知る人ぞ知る「南道郎」のような芸風で、関東の客にはたまらない。この「実力」なら、デン助芝居もできるだろう。(秋よう子、立花智鶴と「しっかり」組めば、「大宮敏光」を超えられるかもしれない)。花形・龍新の「新三郎」(番場の忠太郎もどき)は、風貌の魅力は申し分ないのだが、「やるせなさ」「母恋しさ」「寂しさ」の風情を描出するのが「今一歩」、そのためには「ふっと力を抜く」技(肩の力を抜く、表情を曇らせる、うつむく、目をつぶる等々)を体得する必要があるだろう。「瞼の母」(番場の忠太郎)は、歌唱であれ、舞踊であれ、芝居であれ、「大衆演劇」の基礎・基本、バイブルといっても過言ではない。「こんなヤクザにだれがしたんでえぃ」といった「親にはぐれた子雀」の「甘ったれた」風情と「どうしようもない寂寥感(絶望感)」を、どうやって描出するか・・・、が問われることになる。早い話、龍新が、実父・龍千明から(実生活で)「はぐれれば」(捨てられれば)、いとも簡単にその「風情」を出すことができるわけ(事実、そうした経験のある役者は、舞台に立っただけでその「風情」を「地で」「見事に」描出している)なので、大切なことは、「もし、はぐれたら(捨てられたら)」という気持ち(心情)を想像することだと思う。来年1月には座長を襲名する由、ぜひとも課題の一つとして精進してもらいたい。夜の部、芝居の外題は「雪の夜話」、小諸の百姓兄弟の兄(秋よう子)が「鷹狩り」に来た三千石の大名に気に入られ、奉公。さらに、その娘(立花智鶴)にも気に入られて婿養子に。兄弟の父(座長・龍千明)も大名家に「舅」として迎えられたが、実際は、嫁からいびられて「下男」扱い、その「いびられ方」が天下一品、いびっている嫁(立花智鶴)の方が「吹き出してしまう」様子で、抱腹絶倒。筋書きとしては「悲劇」だが、景色としては「喜劇」という、まさに「至芸」そのものの舞台であった。芝居の「実力」(冴え)においては「関東随一」といっても過言ではないだろう。筋書きは、兄のために人を殺めて島流しにあった弟(花形・龍新)が登場、その諫言によって兄・兄嫁が「改心する」という大衆演劇の定番で、ハッピーエンド。「関東風」の「教科書」を観るような舞台ではあった。
(2008.7.8)

大衆演劇・劇団素描「桑田劇団」(座長・桂木昇)

【桑田劇団】(座長・桂木昇)〈平成20年1月公演・川崎大島劇場〉
午後6時から大島劇場観劇(観客数15)。「桑田劇団」(座長・桂木昇)、座員は桂木昇を筆頭に、太夫元・桑田淳、三門扇太郎、中村駒二郎、山下久雄、桑田千代、桑田幸衣、音羽三美、ベビーゆきお(子役)、友情出演・雪松こずえ、という面々であった。総じて役者の平均年齢が高く、「わびしい」雰囲気が漂っていた。30年前に観た千住壽劇場の雰囲気そのままで「懐かしさ」ひとしおというところであろうか。芝居の開幕前には「配役」がていねいに紹介されたので、すぐに役者の顔と芸名を覚えることができた。外題は「お春茶屋」、それぞれの役者は場数を踏んでおり、安心して観ることができた。終幕近くの「節劇」の実力は「今一歩」、座長の「表情」が加わればさらに良かったと思う。舞踊ショーの中に、役者の「歌唱」が数多く(桂木昇、音羽三美、三門扇太郎、桑田淳、山下久雄)挿入されていたので、昔の歌謡ショーの雰囲気が漂い、他の劇団とは「一味違う」ことにも好感が持てた。中でも山下久雄の「歌唱」は出色、他の役者の舞踊曲を「生で」担当すれば舞台が盛り上がるのではないか。芝居・舞踊の全体を評して、まさに「昔ながらの大衆演劇」「懐かしの大衆演劇」と言えるだろう。ベビーゆきお(子役・2歳)は芝居に登場し、「その場にじっとしている」だけの演技であったが、立派だと思う。「かえるの子はかえる」、将来に期待したい。
(2008.1.18)