梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「愛着障害」(岡田尊司・光文社新書・2011年)要約・10

【発達の問題を生じやすい】
・子どもは愛着という安全基地があることで、安心して探索活動を行い、認知的、行動的、社会的発達を遂げていく。愛着は、あらゆる発達の土台でもあるのだ。愛着障害があると。発達の問題を生じやすい。
・安定した愛着の子どもは、自分一人では手に負え合い問題に対して、助けを求めたり、相談したりすることがスムーズにできる。しかし、愛着障害があると、自力で対処しようとして極限まで我慢し、結果的に潰れてしまうということが起きやすい。
・愛着障害を抱えた人では、向上心や自己肯定感が乏しい傾向がみられる。目標に向かって努力しようという意欲が湧きにくい。親を喜ばすために頑張ろうという気持ちを持ちにくい。
・愛着障害を抱えた偉人(夏目漱石、ミヒャエル・エンデ、ヘルマン・ヘッセ、スティーブ・ジョブズら)のなかには、子どものころ問題児で、いまなら「発達障害」という診断を下されたと思われるような人が少なくない。(ジョブズ→ADHD,エンデ→放火、ヘッセ→破壊、放火、自殺未遂
【発達障害と診断されることも少なくない】
・本来の発達障害は、遺伝的な要因や胎児期・出産時のトラブルで、発達に問題を生じたものであるが、愛着障害にともなって生じた発達の問題も、同じように発達障害として診断されている。両者を区別するのは、症状からだけでは難しい場合も多い。ごく幼いころに生じる愛着障害は、遺伝的要因と同等以上に、その子のその後の発達に影響を及ぼし得る。愛着パターンは、第二の遺伝子と呼べるほどの支配力をもつのである。
・アスペルガー症候群として診断された人が、実は、愛着障害だったというケースにも少なからず出会う。
・アスペルガー症候群が、遺伝的な要因に基づく障害だという、一般的な理解に従うならば、その人を、アスペルガー症候群と診断するよりも、愛着スペクトラム障害と診断した方が、事実をより正確に反映することになるだろう。
・愛着障害のケースに、発達障害の(対処・アプローチ)方法をそのまま当てはめようとしてもなかなかうまくっかない。
・発達障害があって育てにくいために、親との愛着形成がうまくいかず、愛着の問題を来している場合もある。自閉症の子どもの場合、母親との愛着の安定性を調べると、健常児の場合よりも、不安定型愛着の割合が高い。しかし、より症状が軽度な自閉症スペクトラムでは、健常児と比べて不安定型愛着の頻度には、違いが認められていない。発達障害があっても、愛着への影響は小さく、両者は別の問題として理解した方がよい。


【感想】
・ここでは「発達障害」と「愛着障害」の共通点と違いについて述べられており、私にとっては、極めて重要な部分である。共通点は《症状》であり、見ただけでは区別がつかない。筆者は「(より症状が軽度な自閉症スペクトラムでは)発達障害があっても、愛着への影響は小さく、両者は別の問題として理解した方がよい」と述べているが、それに含まれるアスペルガー症候群については「アスペルガー症候群と診断するよりも、愛着スペクトラム障害と診断した方が、事実をより正確に反映することになるだろう」とも述べている。矛盾していないだろうか。また、「愛着障害のケースに、発達障害の(対処・アプローチ)方法をそのまま当てはめようとしてもなかなかうまくっかない」と述べているが、では、「発達障害」のケースに、「愛着障害」の(対処・アプローチ)方法をそのまま当てはめようとした場合、うまくいくのだろうか。さらに、「(発達障害があって育てにくいために、親との愛着形成がうまくいかない)自閉症の子どもの場合、不安定型愛着の割合が高い」とあるが、どのような対処・アプローチを行えばよいのだろうか。
 いずれにせよ、「発達障害」か「愛着障害か」、「愛着障害」を伴う「発達障害」に対してどのようなアプローチをすればよいか、という問題は、親、関係者、専門家らの思惑が複雑に絡み合い、簡単に片づけることができない、というのが現状ではないか、と私は思った。(2015.9.28)