梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「幼児の言語発達」(村田孝次著・培風館・1968年)抄読・50

■音声識別
【要約】
 音声に基づく談話の識別は、子どもが音声そのものに積極的で分析的な関心をもつまでは生じてこない。ルイス(Lewis,1951)によると、音声に対する子どもの関心は、原初的な音声模倣(音調をおもな手がかりにする談話“理解”期に対応する時期に生じる)が減退ないし消滅する“模倣潜伏期”(0歳4ヶ月~0歳10ヶ月)ののちに、はじめて生じ、子どもは音声そのものへの関心に基づくその自発的再現(模倣)に興味をもつようになる。これが本格的な音声模倣の開始期である。
 種々の感情状態あるいは欲求状態にあっても、音声の差異を識別しようとし、また識別できるのは人間だけである。動物はつよい欲求状態のもとでなければ、この識別をしようとしない。
《手がかり語》
 乳幼児の最初の本格的な音声識別は、子どもの耳にする一つの談話のなかの一つの語ないし短い句についてなされるという場合が多い。子どもは、手がかりとなる語(または句)以外の差異に対しては、ほとんど無関心である。
 ある1歳児は、gross(大きい)という語を種々の談話文のなかで与えられたとき、それらすべての談話文に同じ反応を示した。それはつねに、Wie gross bist du?(あなたはどのくらいに大きいの?)に対する正しい応答であり、手を頭に乗せる動作であった。これらの文の“理解”はgrossという一つの手がかり語に対する画一的な反応の域を出なかったのである。beisen(かむ)という語の別の実例である。それはつねに、Lass den Wauwau Papa beisen!(イヌにパパをかませてごらん)に対する“正しい反応”であった。さらにこの同じ子どもは、What's your name?に対しても、How old are you?に対しても、同じように自分の名前で答えた。彼にとってyou(r)が手がかり語であったことがわかる(Leopold,1939)。
 彼らの音声識別は、聞かれた談話の一部分について行われるにすぎず、談話全体に及ぶことがない。一方、手がかり語となるものがどのような性質の語であるかについては明かではない。


【感想】
 ここでは、子どもの「音声識別」が、談話の中の一部分から始まるということが述べられている。著者はそれを「手がかり語」と称している。音声識別を可能にする能力は、①聴覚的感度(聴力)、②聴覚的記銘力、③聴覚的弁別力だと思われるが、私たちが外国語を「音声識別」しようとするとき、まず「ジャパン」、「トーキョー」などというキーワード(手がかり語)から識別できるようになることは、体験から明白であろう。 
 談話全体を識別できるようになるためには、全体を記憶できる聴覚的記銘力や、キーワードから類推する④聴覚的類推力や、⑤聴覚的構成力も必要になるので、相当の時間が必要であるということがわかった。 
 自閉症児の場合、聞き取った談話を再現することが容易にできるのに、その談話を理解することが困難だというケースが、しばしば見受けられる。それはなぜなのだろうか。以後を読み進めることで、何かがわかるかもしれない。(2018.6.24)