梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「幼児の言語発達」(村田孝次著・培風館・1968年)抄読・25

■模倣
《ピアジェの模倣の発達段階論》
【要約】
 一口に“模倣”というが、そこには種々の次元、あるいは型の模倣が考えられる。そのおもなものはつぎの五つであろう。
⑴ 即時模倣(直接模倣)と延滞模倣。前者は与えられた手本を即時模倣する場合であり、後者はその間に時間が経過している場合である。
⑵ 手本との類似と非類似。手本との類似は基本的条件であるが、その類似が手本のどの面に生じているかということと、どの程度類似しているかということが問題になる。
⑶ 機械的・自動的な模倣と意図的・意味的な模倣。音の反響に似た模倣が前者であり、選択的あるいは手段的な模倣が後者である。
⑷ 無意識的模倣と意識的模倣。ほぼ⑶の区分に対応すると思われる。
⑸ 顕現的様式と潜在的様式。即時模倣では顕現的様式でも模倣が生じているが、手本提示時に顕現的模倣が生じなくても模倣的習得がおこる。これが延滞模倣によって証拠づけられており、潜在的様式の存在が認められなければならない。
 いずれの次元ないし型も発達と密接な関係にあるが、これらの発達のなかでの相互連関がピアジェ(Piaget,1945)により示唆されているので、以下彼の所論を要約してみよう。


【感想】
 ここでは「模倣」の次元、型が五つあると述べられている。自閉症児の模倣は、どの次元、どの型で行われているかは、実に興味深い問題だと、私は思う。おそらく、即時模倣、手本との類似、機械的・自動的な模倣、無意識的模倣、顕現的様式で、そのほとんどが占められているのではないだろうか。もしそうだとすれば、その要因は何かを明らかにする必要があるが、ピアジェの所論の中にヒントが隠されているかもしれない。『自閉症治療の到達点』(太田昌孝・永井洋子編著・1992年・日本文化科学社)のいわゆる「太田Stage」も、ピアジェの発達理論を踏まえていると思われるが、そこでは残念ながら、要因を明らかにすることはできなかった。したがって、大きな期待は持てないが、以下を読み進めることで、私なりに考えてみたい。