梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「幼児の言語発達」(村田孝次著・培風館・1968年)抄読・1

【序】
 私は今、自閉症児の「言語発達」について考えている。「言語発達」の遅れは、自閉症児の行動特徴(症状)の一つに挙げられているが、助詞、助動詞、人称代名詞の誤用、紋切型で抑揚のない語調(口調)などが指摘されているだけで、その実相や原因はそれほど究明されていないように思われる。
 自閉症児の「言語発達」が遅れるのは、それ以前の「人間関係」の成立が不十分なので当然の結果だと考えられる。「人間関係」は、①皮膚感覚のやりとり(身体接触)、②「声」のやりとり、③表情のやりとり、④物のやりとり、⑤動作のやりとり、⑥「ことば」のやりとり・・・といった順序で成立していくと思われるが、とりわけ「声」のやりとりが「言語発達」に大きな影響を及ぼしているのではないか、という仮説を私は立てている。
 そこで、本書の「1 発声行動の初期発達」「2 象徴機能の発生」を精読して、乳児の「声」がどのようにして「言語」に変容していくか、その実相を探りたいと思う。


1 発声行動の初期発達
【要約】
 新生児の声は多くの動物の叫喚によく似ており、単調で変化に乏しい。人間の場合は、生後1ヶ月もするとその面目を改めはじめる。音声・音調の変化が生じているだけでなく、叫び声ではない弱い静かな音声が目立ってくる。さらにこれらの音声が組み合わされ一連の流れとなる。外観は一種の‘おしゃべり’に似ている。これは人間に独自の生得的な傾向であり、動物ではけっして生じない。
 これが喃語といわれるものである。人間が言語をもつことのできる一つの理由が、この喃語の自然発生という事実の中にひそんでいる。
 強い情動の自然の流露としての叫喚は、相互に固く結びついており、また叫喚そのものが音声として変化に乏しいことから、言語的伝達の媒体としては不適当である。強い情動からきりはなされているような発声行動だけが言語的伝達の手段となりうるのであり、この意味で喃語行動は言語行動の発生基盤として欠くことができない。
 言語行動ではないが、その発生の重要な基礎となると考えられる最も初期の発声の発達の様相とその機制について、まず考えてみる。


【感想】
 ここでは、①新生児の声は動物の叫喚に似て、単調で変化に乏しいこと、②その声が生後1ヶ月もすると変化して「喃語」がうまれること、③「喃語」は‘おしゃべり’に似ていること、③「喃語行動」は言語行動の発生基盤として欠くことができないこと、が述べられている。
 従って、自閉症児の「言語発達」について考える場合、①新生児のとき「よく泣いたか」(強度、頻度)、②その泣き声は変化したか(叫び声から弱い静かな音声に)、③「喃語」がうまれたか、という点に注目しなければならない、と私は思った。もし、「あまり泣かなかった」「泣き声が弱かった」、あるいは「叫ぶような泣き声がいつまでも続き、変化しなかった」などという状態が1ヶ月以上続いたとすれば、すでに何らかの支障が生じていると思われる。そのことが、自閉症児の「紋切型で抑揚のない語調」と関連しているかもしれない。
(2018.3.1)