梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「幼児の言語発達」(村田孝次著・培風館・1968年)抄読・4

《叫喚と非叫喚との識別》
【要約】
 0歳1ヶ月ごろになると、叫喚よりおだやかで静かな音声がときおり生じはじめる。これは“cooing”とか“whining”とかいわれる非叫喚音である。それまでは声量の調節ということはできなかった子どもが、0歳1ヶ月以後調節することができはじめてくる(Osgood,1953)。その調節はまだ不十分なものであるから、すべての音声を叫喚と非叫喚とにわけることは容易ではない。
 乳児の音声発達の代表的な研究者アーウィンは、新生児後期の叫喚から非叫喚を区別するために、一組の基準を立てた。①呼吸の規則性、②開口状態、③舌の位置、④顔と眼瞼の収縮、⑤音声の強さ。叫喚の場合は、呼吸が規則的で、口を矩形に開き、舌の先を巻き上げ、眼筋の収縮が強く眼瞼が閉ざされ、音声が強い。しかし、この基準によって40名の新生児の音声の識別を行った結果は成功していない(Irwin,1941;Irwin and Chen,1941)。 最近、0歳3ヶ月までの発声を音声記号で表記するとき、これらの音声を、鼻声(whimper)
、ふるえ声(treambie)、泣き声(cry)、金切声(scream)の4種に分け、これらに唇と軟口蓋の運動を組み合わせた分類法が提供されている(Bullowa,Jones,and Bever,1964)。


【感想】
 ここでは、0歳1ヶ月以降になると、非叫喚音が生じはじめることが述べられている。しかし、叫喚音と非叫喚音を区別することは容易ではない、ということである。
 経験的にいえば、叫喚音とは「オギャー、オギャー」であり、非叫喚音とは「オックン、オックン」「アー、ウー」だと思われる。子どもの側からいえば、空腹、痛みなど「不快」のときは叫喚音になり、満腹、安定など「快」のときは非叫喚音を発すると考えられるが、そのことは科学的に論証されているわけではない、ということがよくわかった。
 しかし、子どもの心情と泣き声には密接な関係があり、その心情(欲求、不満、怒り、不安など)を「泣く」という行為で表現していることは間違いないだろう。そして、その様子を見守る親の心情もまた動くことはたしかである。親が泣いている子ども(を放置せず)に、かかわることで子どもが「泣き止む」状態になったとき、少なくとも親は「ほっとして」「気持ちが通じた」と感じるはずである。
 自閉症児の「親子関係」が、生後1ヶ月までにどのような経過をたどったか、を検証することが、きわめて重要であると、私は思った。
(2018.3.2)