梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

2017年12月のブログ記事

  • 「日本語はどういう言語か」(三浦つとむ著・季節社・1971年)通読・2

    第二章 言語の特徴・・その1 非言語的表現が伴っていること 1 言語の「意味」とは何か 【要約】 ・言語の意味が何であるかの言語学者の説明は、大きくわけて二つになる。その一つは、話し手、書き手の側にあるものとしてその心的状態と表現である言語との関係において説明するやりかたであり、いま一つは、聞き手... 続きをみる

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  • 「日本語はどういう言語か」(三浦つとむ著・季節社・1971年)通読・1

    第一部 第一章 絵画・映画・言語のありかたを比べてみる 1 絵画と言語との共通点 【要約】(注・原文は敬体文) ・言語も絵画も、人間の認識を見たり聞いたりできるような感覚的なかたちを創造して、それによって相手に訴えるという点で(作者の表現であるという点で)共通な性格をもっている。 ・絵画や写真は、... 続きをみる

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  • 天皇の《復権》

     大日本帝国憲法第一條には「大日本帝國ハ萬世一系ノ天皇之ヲ統治ス」、また、第三條には「天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス」とある。(「万世一系」とは「永久に一つの系統が続くこと」だから)天皇は永久に大日本帝国を統治し、しかも神聖だから侵してはならないという規定である。つまり「天皇主権」主義である。しかし... 続きをみる

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  • 「冬蜂の死にどころなく歩きけり」(村上鬼城)

     小林一茶は「めでたさも中位なりおらが春」と詠んだが、私の春はめでたくともなんともない。さだめし「めでたさも面白くもなくおらが春」といったところか。とりわけ、今年の正月は、意欲が湧かない。なぜだろうか。それは私が「老いた」からである。平知盛は「見るべきは見つ」と言って、海に飛び込んだそうだが、私も... 続きをみる

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  • 「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・71《完》

    (三)滑稽美  懸詞による旋律美、協和美の観察は、もっぱら美の形式に関することであった。 音声Sを媒介として喚起される概念をA、Bとする時、AとBの対比は、懸詞の美の質的価値を決定する基準となる。AとBとの対比を、角(ASB)によって表す時、角(ASB)は、極小から極大まで様々なものを見出すことが... 続きをみる

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  • 「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・70

    (二)協和美 ● 獨ぬる床は草葉にあらねども秋くるよひは(つゆけかり)けり(「古今集」)  「つゆけかり」という語は、一方に心の憂愁を意味すると同時に、上句の比喩を機縁として文字通り「露けかり」の想を伴い、両方が響き合って、一つの複雑な観念を表出する。二つの想が相対立し、相糾錯するところにこの歌の... 続きをみる

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  • 国技・大相撲の「将来」

     日本相撲協会は20日の臨時理事会で、白鵬に来年1月の給与全額と2月の給与半額を、鶴竜に1月の給与全額を不支給とする報酬減額処分を科したという。あわせて、伊勢ヶ浜親方は理事辞任(降格)、八角理事長も任期3ヶ月の報酬全額返上ということで、事態は収まりそうである。その結論は、先だって行われた横綱審議委... 続きをみる

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  • 「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・69

    ロ 懸詞による表現美 (一)旋律美  懸詞による表現美は、二つの点から考察できる。その一は、懸詞を契機とする思想展開の上から。その二は、展開された美の質的相違の上から。  今、特定の音声をSとし、Sを媒介として喚起される概念をABとする時、概念の対比を次のような図形で表すことができる。   A S... 続きをみる

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  • 「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・68

     文が思想の統一的表現であると考える時、それがどのような形式で表されるかは、国語の特質を考える上で極めて重要な問題である。  懸詞を含む文の統一性がどのようなものであるかを明らかにすることによって、懸詞の表現における機能を明らかにしたい。 ● 梓弓(はる)の山辺を越えくれば道をさりあへず花ぞちりけ... 続きをみる

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  • 「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・67

    三 懸詞による美的表現 イ 懸詞の言語的特質  懸詞とは一語で二語に兼用し、あるいは前句後句を一語で二つの意味を連鎖する修辞学上の名称である。 ● 花の色はうつりにけりな徒にわが身世に(ふる)(ながめ)せしまに(「古今集」)  「ふる」は「経る」「降る」の二語に、「ながめ」は「詠め」「長雨」の二語... 続きをみる

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  • 親方・貴乃花の「沈黙は金」

     元横綱・日馬富士の暴行問題が明るみに出てから一ヶ月余り、ようやくマスコミのメディアスクラムは鎮まったようである。それにしても、連日、貴乃花部屋の周辺にたむろして「親方!一言!」などと叫声をを上げる姿は見苦しい。その情景を見ながら、スタジオに集まった面々が「ああでもない、こうでもない」と井戸端談義... 続きをみる

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  • 「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・66

    三 屈折型 a↗↘b→c→d  例えば「猿!」と呼ばれている人を振り向いて見ると、なるほど猿によく似ている。この滑稽感は、顔そのものや猿の概念、事象が滑稽なのではない。人間と猿との連想があまりに意外であり、もっともだという同感が伴った場合に滑稽に感じるのである。このように、聞き手が概念を通して予想... 続きをみる

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  • 「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・65

    二 語の美的表現  語は以下のような過程的構造形式を持っている。 《起点》(具体的事物、事象)  ↓ 《第一次過程》(概念)  ↓ 《第二次過程》(聴覚映像))  ↓ 《第三次過程》(音声)  ↓ 《第四次過程》(文字)) 従って、語の美的表現ということは、上の過程的構造の美的構成を意味する。語の... 続きをみる

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  • 「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・64

     次に、リズムはどのようにして美の要素となるのだろうか。  リズムは一般にその基本単位が群団化して、より大きなリズム単位を構成する。国語におけるリズム形式の群団化の方法は、音声の休止である。言い換えれば、リズムを充填すべき調音を省略することである。|はリズム形式の限界すなわちリズムの間(ま)、○を... 続きをみる

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  • 「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・63

    第六章 国語美論 一 音声の美的表現  言語の美は、絵画における美のように視覚的要素の構成の上に成立するものではなく、言語過程といわれる主体的表現行為の上に構成されるものであり、それは身体的運動の変化と調和から知覚される美的快感に類するものである。従って、言語美学の考察は、まず第一に言語の体験、言... 続きをみる

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  • 「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・62

    四 詞辞の敬語的表現の結合  敬語表現を理解するためには、まず話し手(甲)、聞き手(乙)、素材および素材に関連する人(丙・丁)、それらの相互関係を明らかにしておく必要がある。  (一)まず表現素材について、これを構成する要素を明らかにする。すなわち丙、丁の関係を考える。今、「見る」という事実を例に... 続きをみる

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  • 「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・61

     次に敬辞を列挙する。 一 「ます」  動詞連用形に付き、「花が咲きます」「本があります」「御座ります」となる。 二 「です」  形容詞終止形に接続して、「山が高いです」となり、また動詞終止形に接続して、「花が咲くです」「本があるです」となり、体言に接続して。「花です」「駄目です」となる。これは、... 続きをみる

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  • 「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・60

    三 言語の主体的表現(辞)に現れた敬語法  言語における主体的なものの表現も、場面の制約を受けて敬語となるが、これはもっぱら、主体の聞き手に対する敬意の表現となる。 ● お暑うございます。 ・・・ございませう。 ● お庭を拝見します。 ・・・ました。  上の「ございます」「ございませ」「ます」「ま... 続きをみる

  • 「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・59

     詞に関する敬語が、素材的事実の特殊な概念的把握の表現であって、話し手の敬意そのものの表現ではないということは、敬語の構成法(表現過程の形式)を考察すれば明らかになることである。その構成法を例示する。 その一 「あげる」「くださる」「いただく」  その一は、概念の比喩的移行である。素材的事実に存在... 続きをみる

  • 「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・58

    ロ 素材と素材との関係の把握  甲は話し手、乙は聞き手、丙丁は素材的事実、丙および丁は素材的事実の成立に関与する人とする。丙丁と話し手甲との関係を問題外として、丁と丙が同等ならば「丁が丙にやる」だが、丁が丙より上位なら「丁が丙に下さる」となり、丁が丙より下位なら「丁が丙に差し上げる」とならなければ... 続きをみる

  • 「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・57

    その二   お・・になる  お・・になられる  「お書きになる」「お書きになられる」等と使用される。これらの表現が敬語となるのは、「る」「らる」の場合と同様、ある事実の直叙を避ける方法に基づく。「なる」は「白くなる」「暖かくなる」の「なる」であって、他者がある行為において実現するという表現で、「書... 続きをみる

  • 「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・56

     次に、詞としての敬語は、全く素材の表現に関するものであることを、敬語の構成法の上から明らかにしようと思う。  敬語の語彙論的構成法を考察することは、(敬語の対象を追求することではなく)ある事実が話し手によってどのように規定され表現されるかを明らかにすることである。すでに述べたように、言語の表現機... 続きをみる

  • 「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・55

     事物の概念的把握による語の構成は、語彙論に属するから、敬語的表現(敬語的構成)は語彙論に所属しなければならない。敬語的系列は語彙的系列である。この見解は、文法体系の組織に関連して、重要な結論を導く。 「咲くだろう」という語は詞と辞の結合で、「咲く」という事実の概念に話し手の「だろう」という推量が... 続きをみる

  • 「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・54

     次に、敬語はどのような理由で、国語の特性と考えることができるかを明らかにしようと思う。それを日本民族の美風の現れなどと、民族精神の云々をする前に、敬語の語学的特質を究める必要がある。敬譲の表現は外国語にもある。従って、国語における敬語の特質が奈辺にあるかということが問題になってくる。  国語の敬... 続きをみる

  • 「国語学言論」(時枝誠記著・岩波書店・1941年)精読・53

    二 言語の素材の表現(詞)に現れた敬語法 イ 話し手と素材の関係の規定  詞は、事物(素材)の概念的把握によって成立するが、その中から敬語というものを特に取りだして区別するのはどのような根拠によるものか、について述べたい。  それにはまず、詞の成立する過程(素材の概念的把握)の種々な形式についてあ... 続きをみる