梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「幼児の言語発達」(村田孝次著・培風館・1968年)抄読・6

《摂食運動と調音活動》
 言語音声(母音・子音)を出すためには、呼吸活動と声帯の開閉との間の協応だけでなく、口腔の姿勢や運動を伴うことが必要であり、特定の言語音声を発するための特定の姿勢や運動は、“調音”(articulation)とよばれる。調音をつかさどる器官は呼吸器官とも、摂食器官とも多分に重複している。摂食運動の実行と、その経験の積み重ねが、調音活動のための下地となり、調音能力を育てる基礎要因であるという説がある。
 摂食活動は、乳を摂取する活動をさし、吸うこと(吸啜)と、飲み下す(嚥下)である。吸啜反応は生後3週~5週で現れる。正常な授乳姿勢をとってやると、乳児は他の刺激が与えられなくても吸啜をはじめる。新生児が覚醒している時間のうちで摂食活動に費やされる時間はほとんどその半分を占めている。このように長い時間の豊かな経験が、吸啜と嚥下の器官と機能の発達を促すことは十分に考えられる。
 舌と唇が母親の乳嘴に接し、それを適当な強さと時間間隔で吸い、嚥下するという一連の協応反応が十分に形成される時期までは子音の分化は認められない(McCarthy,1952)。
その時期までの音声のほとんどすべて(97%)は声門音と軟口蓋音である(Irwin,1947)。これらの音声が吸啜および嚥下の運動に伴って偶然に発せられやすい点が注目されるだろう。このように、調音活動はそれ以前から生じている摂食運動に偶然的に随伴するものである(Shohara.1935)。


【感想】
 ここでは、言語音声(母音・子音)を出すためには、①呼吸活動と声帯の開閉との間の協応、②口腔の姿勢や運動が伴うことが必要であり、その器官(発声・発語)は呼吸器官とも、摂食器官とも重複していることが述べられている。この時期における摂食運動の内容は、吸うこと(吸啜)と飲み下す(嚥下)がほとんどである。新生児に「脳性まひ」「口蓋まひ」「口蓋裂・口唇裂」といった症状がある場合には、この段階で「泣き声が弱い」「泣き声が持続しない」などの支障が生じることになる。
 また、「オギャー、オギャー」「オックン」「アー、ウー」などと表現される発声のほとんどは、声門音と軟口蓋音であり、摂食運動に「偶然的」に随伴するという指摘が興味深かった。そして、ここでもその発声を新生児が聴覚的にフィードバックしているかどうかが重要であると、私は思った。(2018.3.4)