梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「幼児の言語発達」(村田孝次著・培風館・1968年)抄読・23

■初期の象徴活動
【要約】
 象徴機能の特性として、つぎの諸点が注目される。
⑴ 必ずしも音声的に発現されず、しばしば非音声的行動に現れる。
⑵ 欲求の充足に動機づけられていない。
⑶ 対人的・社会的な性質がない。
⑷ 代表機能の原初形態として発現する。
 このような特徴はピアジェ(Piaget,1945)のつぎの観察によく示されている。
《 ピアジェの一女児の1歳4ヶ月における行為》
 父親が彼女の目の前でマッチ箱をあけ、その中に鎖を入れ、箱の口を少しあけたまま彼女にさし出す。彼女は鎖を箱からとり出そうとして、種々の行動的探索を試み、それが徒労であることを知ると、箱の口を一心に見つめながら、彼女は自分の口を何度か開閉した。はじめ、口を少ししか開かなかったが、次第に広く開けるようになった。ピアジェは、これは箱の口の空洞性を理解し、これを自分の口の行為で表そうとしているのであり、口の行為は箱の口の象徴とみられ、これは初期における象徴行為であるという。彼女の用いた象徴は音声によってではなく、非音声行為によって作られているのである。この口の行為はさらにもう一つの象徴的特徴を示している。この行為は目的達成のための直接有効なものではなく、目的に対する手段的行為でもない。それは行為を媒介とした“思考”なのである。箱の口はそこに現前していた。しかし、箱の口が十分に開いた状態は現前していなかった。この象徴行動は現前刺激にかなり強く規定されているから、象徴性は高くはない。しかし現前刺激のまったくの模写ではなく、彼女が望んでいる状況の行為的創造である。それは事情の認知のための手段であるが、欲求解消のための直接的な手段ではない。ここで自分の口を使うということは必然的なことではない。この点がこの行動の象徴性のもう一つの面である。箱の口の状態をどのような素材でどのように表すかということは、子ども自身が選んで決定することである。実際、彼女は別の日に同じ事態で手掌の開閉を同じ目的で用いた。
 ピアジェによると、さらに一歩進んで、知覚の場と象徴活動との関係がさらに間接的になるためには、象徴的表象が必要である。しかし、このように進んだ段階に達するための下準備は、いまみたような感覚運動水準における象徴機能のなかで用意されるのである。


【感想】
 ここではピアジェが1歳4ヶ月の女児の観察を通して、すでに「象徴的表象」の段階への下準備として、象徴行為を行っているということについて述べられている。
 マッチ箱の中に入っている鎖を取り出そうとして、うまくできないとき、女児は自分の口を開いたり、手掌を開閉したりしたということである。それは、音声的な発現ではなく、非音声的行動であり、また、目的達成のために直接有効ではなく、手段的行為でもなく、「“思考”なのである」と著者は述べている。
 要するに、1歳4ヶ月の幼児は、すでに思考を始めており、それは「象徴行為」として現れるということであろう。私自身は、音声の「象徴的使用」の方に関心があるのだが、その土台として、模倣と遊び、身振り表情などの発達についても考察しなければならないということがよくわかった。(2018.4.12)