梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「幼児の言語発達」(村田孝次著・培風館・1968年)抄読・7

【要約】
 予期吸啜反応はいっそう直接的な、一部の子音生産の下準備となりうる。予期的に吸啜反応をしているときに呼気が生じると、これが唇音[p][b]、鼻唇音[m]、鼻歯音[n]を作り出す。歯舌音[t]の生じる可能性もある。このように吸啜反応は、唇、歯、鼻腔、舌の関係する広範囲の調音活動の基礎となることが考えられる。一方、奥舌子音、喉音は、嚥下反応によって用意される可能性がある。嚥下運動は軟口蓋への奥舌部の接近によって生じるものであり、発声中にこの運動が生じると、[g]という型の音声が作られる。‘[x,k,g]および口蓋垂音[r]についても、それらはすべて[g]の有声または無声の変型であり、いずれも同じ表出起源をもつものである’(Lewis,1951)。
 しかし、これらの調音は明瞭なものではない。子どもはまだ一つの長い母音を持続することができない(Lewis,1951)。
 調音にたずさわる各部位の協応が十分にできるようになるとき、発声は明瞭度を増してくる。吸啜や嚥下の反応の自己訓練が調音発達の一つの要因と考えられるとはいえ、これらの機構が高次の神経生理学的成熟に依存していることはたしかである。したがって、まだ子どもの調音能力はきわめて未熟であり、音声のバラエティーには大きな偶然性がある。呼吸運動は脊髄に支配され、嚥下運動は延髄に支配される。そして複雑な調音活動の要求される子音は大脳皮質に支配される。調音器官の筋の発達順序は、中枢神経系の低次水準から高次水準への神経生理学的成熟に基本的に従うものと考えられる(Berry and Eisenson,1942)。


【感想】
 ここでは、予期的吸啜反応の(実際に乳を吸うのではなく、吸う運動だけを行う)際に呼気が生じると、様々な子音が作り出されることが述べられている。唇を閉じたり開けたりすれば「パ」や「バ」という音が出て、それが鼻に抜ければ「ナ」という音になる。舌が歯茎に当たれば「タ」という音も出る。さらに嚥下(唾液を飲み下す)運動の際にも、奥舌が軟口蓋に近づいて「グ・ガ」という音が出たりする。それは「カ・ク」などという音の原型になる、ということである。しかし、まだこの段階(生後2ヶ月ころまで)は、神経生理学的に未熟なため、それらの音は「偶発的」に作られるにすぎない、ということである。しかも、呼吸運動は「脊髄」に支配され、嚥下運動は「延髄」に支配され、調音活動は「大脳皮質」に支配されているとすれば、それらの器官が「調和的に発達」することが重要であろう。 
 通常の会話が可能になるためには、「アー」という発声持続が10秒必要であると言われている。また吸気と呼気に要する時間比が1:7だとも言われている。
 要するに、①まず呼吸が整い、大きな声を長く出せること、②唇や舌がスムーズに動くこと、③飲み下すこと(嚥下反射)がスムーズに行われること、が調音活動の必須条件であること、がよくわかった。
 私の経験では「自閉症児」の場合、以上の条件は整っており、深刻な支障は生じていないと思われるが、どうだろうか。(2018.3.5)