梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「愛着障害」(岡田尊司・光文社新書・2011年)要約・6

【良い子だったオバマ】
・オバマ大統領は、「良い子」や「優等生」を演じきった。「従属的コントロール」を駆使した典型である。
・クリントン大統領は、母親に対してはとても従順であったが、それ以外の女性に対しては支配的で、うまく利用したり搾取しようとした。「操作的コントロール」の典型である。【愛着パターンから愛着スタイルへ】
・幼いころの愛着スタイルは、まだ完全に確立したものではなく、相手によって愛着パターンが異なることも多いし、養育者の接し方が変わったりすることでも変化する。
・十代初めのころから、その人固有の愛着パターンが次第に明確になる。そして成人するころまでに、愛着スタイルとして確立されていく。
・大人の愛着スタイルは、大ざっぱに言って、安定型(自律型)、不安型(とらわれ型)、回避型(愛着軽視型)の三つに分けられる。不安型は、子どもの抵抗/両価型に対応するものである。不安型と回避型は、不安定型に属する。
・遺伝的な気質とともに、パーソナリティの土台となる部分を作り、その人の生き方を気づかないところで支配しているのが愛着スタイルである。愛着スタイルは恒常性をもち、特に幼いころに身につけたものは7~8割の人で生涯にわたり持続する。生まれもった遺伝的天性とともに、第二の天性としてその人に刻み込まれるのである。遺伝的天性を変えることはできないとしても、愛着という後天的天性を守ることは可能である。
【愛着障害と不安定型愛着】
・虐待やネグレクト、養育者の頻繁な交替により、特定の人への愛着が損なわれた状態を反応性愛着障害と呼び、不安定型愛着を示す状態の中でも、もっとも重篤なものと考えられる。
・反応性愛着障害は大きく二つに分かれ、誰にも愛着しない警戒心の強いタイプを抑制性愛着障害と呼び、誰に対しても見境なく愛着行動がみられるタイプを脱抑制性愛着障害と呼ぶ。
・抑制性愛着障害は、ごく幼いころに養育放棄や虐待を受けたケースに認められやすい。愛着回避の重度なものでは、自閉症スペクトラムと見分けがつきにくい場合がある。
・脱抑制性愛着障害は、不安定な養育者からの気まぐれな虐待や、養育者の交替により、愛着不安が強まったケースにみられやすい。多動や衝動性が目立ち、注意欠陥/多動性障害(ADHD)と診断されることもしばしばである。
《反応性愛着障害の診断基準(DSM-ⅣーTR)》
A 5歳以前に始まり、(略)対人関係で、以下の⑴または⑵によって示される。
⑴ 対人的相互反応のほとんどで、発達的に適切な形で開始したり反応したりできないことが持続しており、それは過度に抑制された、非常に警戒した、または非常に両価的で矛盾した反応という形で明らかになる。(例:子供は世話人に対して接近、回避、および気楽にされることへの抵抗の混合で反応する。または硬く緊張した警戒を示すかもしれない)
⑵拡散した愛着で、それは適切に選択的な愛着を示す能力の著しい欠如を伴う無分別な社交性という形で明らかになる。(例:あまりよく知られていない人に対しての過度のなれなれしさ、または愛着の対象人物選びにおける選択力の欠如)
B 基準Aの障害は発達の遅れ(精神遅滞のような)のみではうまく説明されず、広汎性発達障害の診断基準も満たさない。
C 以下の少なくとも1つによって示される病的な養育
⑴ 安楽、刺激、および愛着に対する子供の基本的な情緒的欲求の持続的無視
⑵ 子供の基本的な身体的欲求の無視
⑶ 主要な世話人が繰り返し変わることによる、安定した愛着形成の阻害(例;養父母が頻繁に変わること)
D 基準Cにあげた養育が基準Aにあげた行動要因の原因であるとみなされる。(例:基準Aにあげた障害が基準Cにあげた病的な養育に続いて始まった。
【三分の一が不安定愛着を示す】
・(一般の児童のうち)安定型の愛着を示すのは、およそ三分の二で、残りの三分の一もの子どもが不安定型の愛着を示すのである。愛着障害と呼ぶほど重度ではないが、愛着に問題を抱えた子どもがかなりの割合存在することになる。さらに成人でも、三分の一くらいの人が不安定型の愛着スタイルをもち、対人関係において困難を感じやすかったり、不安やうつなどの精神的な問題を抱えやすくなる。
・このような広い意味での「愛着障害」は、「愛着スペクトラム障害」と同義である。
・愛着障害は、現代人が抱えているさまざまな問題に関わっているばかりか、一見問題なく暮らしている人においても、その対人関係や生き方の特性を、もっとも根底の部分で支配しているのである。


【感想】
・以上で、第1章は終わるが、私が最も興味を惹かれたのは「反応性愛着障害の診断基準」(DSM-ⅣーTR)の内容である。中でも、「基準Cにあげた養育が基準Aにあげた行動障害の原因であるとみなされる」と明記されていることであった。筆者は、反応性愛着障害の「抑制性愛着障害」は《自閉症スペクトラムと見分けがつきにくい場合がある》、また、「脱抑制性愛着障害」は、《注意欠陥/多動性障害(ADHD)と診断されることもしばしばである》と述べている。現代の定説では、自閉症スペクトラムや注意欠陥/多動性障害(ADHD)は「発達障害」と一括りにされ、原因はいずれも「脳の機能障害」(親の育て方に因るものではではない)とされているが、この診断基準では(親の)《病的な養育》が行動障害の原因であると《みなしている》。反応性愛着障害は《病的な養育》によって生じる、また「愛着障害」と「発達障害」の《見分けがつきにくい》とすれば、自閉症スペクトラムや注意欠陥/多動性障害の原因が「病的な養育」(親の育て方)に因ると《みなされても》「誤り」ではないのではないか。
 筆者は、本書の帯で「本当の問題は発達よりも愛着にあった」と強調している。今後の論脈が、どのように展開していくのか、ますますの興味をもって次章を読み進めたい。(2017.8.23)