梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

『「自閉」をひらく 母子関係の発達障害と感覚統合訓練』(つくも幼児教室編・風媒社・1980年)精読・32

《第7章 統合訓練の方法》(石田遊子)
《1.子どもにとって最適な刺激》
・エアーズは、一般的原則として次のように言っている。「一般的にいって、楽しいもの・喜ぶものは統合されるものだと考えられる。」「もし子どもがその刺激が好きで自分からすすんでそれを求め、そのあと気持ちよく感じ、それによって興奮過剰になることがなければ、たぶんそれは神経を組織だてる効果をもっているのだといえる。逆に刺激が過剰に脳を活性化してしまった場合には、睡眠や注意集中が困難になってしまったりする。そしてたいていの場合、それより以前に子ども自身がそれ以上要求しなくなったり、気分が悪くなったりする。その場合は統合されていないのだから、しならくの間は他の方法を利用すべきである。(『感覚統合と学習障害(1975年)』(協同医書出版社・昭和53年)・要するに子どもが喜ぶ刺激は与えるべき刺激で、いやがるものは止めた方がよいということであろう。
・子どもがいやがる場合、ほんとうはその刺激が好きなのだが、臆病なために初めての経験に驚いて不安の方が優先してしまい、拒否する行動になって表れることがある、こうした食わず嫌いの場合と、刺激そのものを嫌がっている場合とを同一視しないように、注意深く観察しなくてはならない。あまり無理をせず、同じ種類のゆるい穏やかな刺激から始めてみるとよい。食わず嫌いなら喜ぶはずである。もし与え終わっても嫌がっているようなら、ほんとうにその刺激が適していないのだろうと判断して別の種類の刺激に変えるようにする。このように意図的に働きかけてその反応を観察し、適した刺激を選び出すのである。
・常同行動がある場合、その行動が必要な刺激の種類を判断するヒントになる。
・もうひとつ、まず原始感覚に注目せよ、という原則がある。平衡感覚刺激の活動は、その他の感覚の統合も助ける。
・平衡感覚刺激を与える活動は多くの場合子ども達が大変喜ぶので、他人との接触がうまくいかない子どもにもとりいれ易い。“母子関係を育てる”という意味でもとり入れ易い。・触覚刺激についても同じことがいえる。ブラシで手や足をこすってあげるという活動は、未発達な幼児には自分の手なのだ・自分の足なのだという、ボディイメージを与えることにも結びつくし、その部分の筋の収縮を促し、それが運動能力の習得に結びつくことにもなる。
・原始感覚を刺激する遊び(くすぐる、抱いて振りまわす等)は、何も道具を使わず、まとまった時間もかからないので、ちょっとした合間に手軽に子どもと遊んであげられる。・また、とりかかりやすいという保育者側の利点からいうと、鋭すぎる感覚よりも鈍すぎる感覚に対しての援助の方が始めやすい。
・以上述べたような大きな原則、《最も喜ぶ刺激=必要な刺激》《原始感覚に注目》《鈍すぎる感覚に注目》を念頭においた上で、ひとりひとりの子どもに最も適した活動を、工夫していかなくてはならない。
【感想】
・いよいよ「感覚統合訓練」の真髄ともいえる「統合訓練の方法」を読み始める。
・ここでは、「子どもにどのような刺激を与えればよいか」ということについて、わかりやすく述べられており、たいそう有益であった。要するに、①子どもが最も喜ぶ刺激が、子どもが必要としている刺激であること、②原始感覚に注目し、それを「母子関係」の形成に結びつけていくこと、③鋭すぎる感覚よりも鈍すぎる感覚に注目すること、を念頭に置くということである。
・また、以上の記述から、いくつかの課題も見えてきた。その一は、子どもが喜ぶ刺激とは「鈍い感覚が要求する刺激」であり、「常同行動」の中にもたくさん見られると思われるが、それをそのまま「与え続けて」(見過ごして)よいか、その二は、「食わず嫌い」のため刺激を拒否していることを理解できない(不安傾向の強い)「親」に対してどう接すればよいか、その三は、子どもの関心が、「聴覚」「視覚」の方に偏っており、その刺激を喜んでいる場合、それを「与え続け」てよいか、ということなどである。次節以降を読み進める中で、それらの課題が解決できれば幸せである。(2016.4.22)