梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

73回目の誕生日

 今日は73回目の誕生日である。思えば随分、長生きをしたものだ。仏教でいう「四苦八苦」の四苦とは「生老病死」の苦のことである。生まれること、老いること、病むこと、そして死ぬことは、すべて自分の思い通りにはならないという意味のようだが、まさに「仰るとおり」、私自身「病む」ことまでは経験済み、しかし「死ぬこと」はこれからのことである。60歳を過ぎてから、どのように死ぬかをテーマに生きてきたが、その答はいっこうに見当たらない。松尾芭蕉は晩年「旅に病んで夢は枯野をかけめぐる」と詠んだ。そのとき彼は、どのような夢を見たのであろうか。私の夢は、ほとんどが過去のできごと、情景であり、しかもすべてが「思い通りにならない」という経験である。苦しまぎれに「そんなはずはない!」と叫んで目が覚める。眠ることが疲労を増すという悪循環が始まっているのだ。できれば、これ以上「病む」ことなしに死にたいと思う。「ぽっくり死にたい」とは、高齢者の誰もが願うことに違いない。私もそれを夢見ているが叶うはずがない。日頃の行いが我欲に満ち、煩悩の塊だからである。人はその生き様のように死んでいく。だとすれば、私の死に様は「苦しんで、苦しんで、苦しみ抜いて」死ななければならない。 その覚悟を決めること、それが73回目の誕生日に与えられた私の課題かもしれない。(2017.10.25)