梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「愛着障害」(岡田尊司・光文社新書・2011年)要約・5

【ストレスと愛着行動の活性化】
・何か特別な事態が生じて、ストレスや不安が高まったときには、「愛着行動」が活発になる。それが健全な状態であり、自分を守るために重要なことである。
・愛着行動には、さまざまなヴァリエーションがある。(幼い子ども→直接行動、フランクル→愛する人を回想する)
・愛着行動は、ストレスや脅威が高まった状況で、愛着システム(愛着を担う脳内の仕組み)が活性化された結果、誘発される。誘発のされ方には、人によって大きな違いがあり、そこに、各人の愛着のスタイルの特性がはっきりと示される。
・安定した愛着においては、ストレスや脅威に対して、愛着システムが適度に活性化され、ほどよく愛着行動が増加することで、ストレスの緩和や安定の維持が図られる。
・人によっては、ストレスや脅威を感じても、愛着行動がほとんどみられないことがある。(愛着を求める行動をとっても、拒絶されたり、何の反応もかえってこないことが繰り返された結果、最初から求めない行動スタイルを身につけたと理解される。)
・また、ストレスや脅威に対して、過剰なまでの愛着行動が引き起こされる人もいる。
(愛着システムが過剰に活性化しており、少しでも愛着対象が離れていきそうな気配を感じただけで、強い不安を覚える。これは、愛着システムが育まれる時期に、過剰活性化戦略が、自分の安全や安心を守るのに有利だった結果、そうした行動スタイルを身につけたと考えられる。養育者の関心が薄く、大げさに騒いだときだけ、かまってもらえたというような状況である。)
・もっと複雑な反応がみられることもある。ストレスや脅威が高まったときに、愛着行動とは一見正反対な行動が引き起こされる場合である。本当はそばにいてほしい人を拒否したり、攻撃したり、無関心を装ったりするというものだ。
(こうした逆説的な反応は、愛着の問題が深刻なケースほど強く、また頻繁にみられる。求めても応えてもらえず、逆に傷つけられることへの不安や怒りが、アンビバレントに同居する結果だと考えられる。)
【子どもの四つの愛着パターン】
・子どもの愛着パターンを調べられるのに、よく用いられるのは、エインスワースが開発した新奇場面法である。(子どもと母親を離し、また再会させるという場面設定をして、そのときの子どもの反応を観察することで、愛着のパターンを分類する)
《安定型》母親から離されると泣いたり不安を示したりするが、その程度は過剰というほどではなく、母親が現れると素直に再会を喜び、母親に抱かれようとする。(6割強)
《回避型》母親から引き離されてもほとんど無反応で、母親と再会しても目を合わせず、自分から抱かれようともしない。安全基地をもたないため、ストレスを感じても、愛着行動をおこさないタイプだということができる。(1割5分~2割)小さいころから児童養護施設などで育った子どもに典型的にみられるが、親の関心や世話が不足して放任になっている場合でもみられる。回避型の子どもは、その後反抗や攻撃性の問題がみられやすい。
《抵抗/両価型》母親から離されると激しく泣いて強い不安を示すのに、母親が再び現れて抱こうとしても拒んだり嫌がったりする。しかし、いったんくっつくと、なかなか離れようとしない。母親の安全基地としての機能が十分でないために、愛着行動が過剰に引き起こされていると考えられる。(1割程度)親がかまってくれるときと無関心なときの差が大きい場合や、神経質で厳しく過干渉な場合が多い。その後、不安障害になるリスクが高く、いじめなどの被害に遭いやすいとされる。
《混乱型》回避型と抵抗型が入り混じった、一貫性のない無秩序な行動パターンを示すのが特徴である。まったく無反応かと思うと、激しく泣いたり怒りを表したりする。また、親からの攻撃を恐れているような反応をみせたり、逆に親を突然叩いたりすることもある。混乱型は、虐待を受けている子や精神状態がひどく不安定な親の子どもにみられやすい。安全基地が逆に危険な場所となることで、混乱を来していると考えられる。その後、境界性パーソナリティ障害になるリスクが高いとされる。
【統制型と三つのコントロール戦略】
・不安定な愛着状態におかれた子どもでは、3,4歳のころから特有の方法によって周囲をコントロールすることで、保護や関心が不足したり不安定だったりする状況を補うようになる。統制型の愛着パターンと呼ばれるもので、攻撃や罰を与えることによって周囲を動かそうとするパターンと、良い子に振る舞ったり、保護者のように親を慰めたり手伝ったりすることで親をコントロールしようとするパターンがある。
・子どもによっては、ほんの4歳ごろから、親の顔色を見て、機嫌をとったり慰めようとしたりという行動を示す。親が良くない行動をとったときや自分の思い通りにならないときに、叩こうとするといった攻撃的手段に訴えることは、3歳ごろから認められる場合もある。
・このコントロール行動は、無秩序な状況に、子どもながらに秩序をもたらそうとするものだと言えるだろう。こうしたコントロール戦略は、年を重ねるごとにさらに分化を遂げて、特有のパターンを作りだしていく。その後の人格形成に大きな影響を及ぼすことになる。
・それらは、大きく三つの戦略に分けて考えることができる。
《支配的コントロール》暴力や心理的優越によって、相手を思い通りに動かそうとするもの。
《従属的コントロール》相手の意に従い恭順することで、相手の愛顧を得ようとする戦略である。相手に合わせ、相手の気に入るように振る舞ったり、相手の支えになったりすることで、相手の気分や愛情を意のままにしようとする点でコントロールといえる。
《操作的コントロール》支配的コントロールと従属的コントロールがより巧妙に組み合わさったもので、相手に強い心理的衝撃を与え、同情や共感や反発を引き起こすことによって、相手を思い通りに動かそうとするものである。
・いずれのコントロール戦略も、不安定な愛着状態による心理的な不充足感を補うために発達したものである。この三つは、比較的幼いころから継続してみられることが多い一方で、大きく変化する場合もある。また、相手によって戦略を変えてくるいうことも多い。それによってバランスをとっているともいえる。


【感想】
この節の内容を要約すると以下の通りである。
・ストレスや脅威が高まると、脳内の愛着システムが活性化して「愛着行動」を誘発する。その誘発のされ方は、人によって様々であり、その人の愛着スタイルの特性が示される。安定した愛着では、ほどよい「愛着行動」が誘発され、ストレスの緩和や安定の維持が図られるが、①愛着行動がほとんどみられない、②愛着行動が過剰すぎる、③愛着行動とは正反対の行動がみられる、場合がある。
・子どもを親から引き離した場合、四つの愛着パターンに分類できる、「安定型」「回避型」「抵抗/両価型」「混乱型」である。「回避型」は「愛着行動」が乏しい。その後、反抗や攻撃性の問題がみられやすい。「回避型」は「愛着行動」が過剰である。その後、不安障害、いじめの被害に遭いやすい。「混乱型」は「回避型」と「抵抗型」の両方を併せ持っている。その後、境界性パーソナリティ障害になるリスクが高い。
・不安定な愛着状態におかれた子ども(「回避型」「抵抗型」「混乱型」)は、3、4歳のころから特有の方法によって周囲をコントロールする。統制型の愛着パターンと呼ばれるもので、攻撃や罰を与えることによって周囲を動かそうとするパターンと、良い子に振る舞ったり、親を慰めたり手伝ったりすることで、親をコントロールするパターンがある。・こうしたコントロール戦略は、その後の人格形成に大きな影響を及ぼす。
・コントロール戦略は、支配的コントロール、従属的コントロール、支配と従属を巧妙に組み合わせた操作的コントロールに分類できる。


 ここでは「愛着システム」(脳内の仕組み)、「愛着行動」「愛着パターン」「愛着スタイル」「コントロール戦略」という言葉がキーワードである。親子の愛着(互いに相手を愛し合い、必要不可欠な特別な存在だと感じるような接触)が積み重ねられる(抱っこ、おんぶに代表される身体接触が繰り返される)ことによって、「愛着システム」が形成されるが、それが不十分な場合、「愛着行動」(相手を求める行動)が極端に乏しかったり、過剰すぎたり、混乱したり、という問題が生じる。その問題を「回避型」「抵抗型」「混乱型」というパターンに分類して説明している。また、「愛着システム」が不十分な場合、その人は「コントロール戦略」を使って、その不十分さを補おうとする。周囲に対して「支配的」「従属的」「操作的」に振る舞って、心の安定を得ようとする。そうした「心の動き」が、その人の「人格」を形成していくのだ、という筆者の指摘はたいそう興味深く、説得力があった。
 余談だが、「今、赤ちゃんがあぶない」の著者・田口恒夫氏は「言語発達の臨床」という書物の中で、(「愛着システム」が脳内に形成されるためには)「抱っこ、おんぶ」に代表される「身体接触」(相互交流)は《一千時間以上必要》と述べている。はたして、現代の親たちは、それだけの時間をわが子のために費やしているだろうか。(2015.9.22)