梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

民主主義とは何か

 生命を支配する原理は「弱肉強食」と「優勝劣敗」である。生命を維持、成長・拡大させるためには、強くなければならない。さらに、優れていなければならない。生物の世界は、この原理にもとづいて推移する。では、人間もまた生物だから、人間の社会にもこの原理を当てはめてよいか。まだ(社会が)未熟な段階においては、「是」とされてきた。 今、それを「政治」という分野に限っていえば、弱肉強食、優勝劣敗の原理を「是」とする一派を「タカ派」と呼ぶ。日本では、第二次世界大戦が終わるまで「タカ派」による政治(権力支配)が顕著であったが、敗戦後、「政治は母と子のために」というスローガンに代表される「ハト派」も台頭してきた。そこでは、強者が弱者を支配する(優者が劣者の上に立つ)原理は「否」とされる。皮肉なことに、この理念は、強者(戦勝国アメリカ)によって弱者(敗戦国日本)に「強制的に」もたらされた。だから、日本の「ハト派」は脆弱である。「タカ派」に豹変することもしばしばである。それはともかく、「タカ派」よりも「ハト派」の理念の方が成熟している。生物界の原始的な原理を超えているからである。人間が生み出した、人間だけに通用する原理だからである。
 この理念を「民主主義」という。民主主義は「弱肉強食」「優勝劣敗」という原理とは無縁である。民主主義は、社会のルールを合議(少数を尊重した多数)で決める。民主主義は社会の構成員(個人)の権利を尊重する。民主主義は構成員(個人)の自由を保障する。  
 特に重要なことは、民主主義は、「民主主義を否定する理念」をも否定しない、という点である。思想、信条、信教、表現は「自由」である。ただし、合議で決めた社会のルールを侵すことは許されない。 
 かみくだいて言えば、民主主義下においては、どんな考え方をしてもよい、何を信じてもよい、何を言ってもよい。ただし、(言動においては)法律(良識を含む)は守らなければならない。・・・ということである。
 にもかかわらず、昨今の「政治」という分野に限って見れば、「タカ派」による「民主主義を否定する理念」ばかりが跳梁跋扈している。「ハト派」絶滅の危機(正念場)なのである。
(2019.6.14)