梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

喫緊・最大の課題

 人は、その文字が示すように、支え合って生きていく。支えられる方も、支える方も、互いに相手を必要としている。弱者は強者を頼りにするが、強者もまた一人では生きて行けない。弱者があればこそ強者になれるのである。といった関係が人間社会の摂理だと思われるのだが・・・。実際には弱肉強食の原理が優先されているようである。
 人は、支え合う相手を失ったとき、どうなるか。心身のバランスが崩れ、落ち着きをなくす。その状態は一様ではなく、専門家によって「心身症」「神経症」「心因反応」「抑うつ状態」「うつ病」「人格障害」「発達障害」「統合失調症」等々、多種多様なレッテルを貼られることになる。それぞれのレッテルには、その状態に応じて、これまた多種多様な処方が準備されているようだ。しかし、今のところ、特効薬は見当たらない。
 大切なことは、専門家のレッテルに惑わされないことである。要は一点、支え合う相手を失ったとき(または、そう感じたとき)、再び相手を求めるか、それとも、ゴータマ・
シッダールタ(ブッダ)の言葉どおり、「犀の角のようにただ独り歩む」か、そのいずれかを選択することである。彼は言う。「今の人々は自分の利益のために、交わりを結び、また他人に奉仕する。今日、利益をめざさない友は、得がたい。自分の利益のみを知る人間は、きたならしい。犀の角のようにただ独り歩め。」(経集75)
 いうまでもなく、私自身は「自分の利益のみを知る人間」で「きたならしい」。そこまでは分かっているつもりだが、さてどうするか。人生の終焉を迎えようとしている者の、喫緊・最大の課題なのである。(2016.8.22)