梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大衆演劇・劇団素描「剣戟はる駒座」(座長・津川竜)

【剣戟はる駒座】(座長・津川竜)<平成19年12月公演・十条篠原演芸場>
1 開幕前の「若手」(子役)紹介は、劇団員と観客の交流を深めることができ、すばら しい企画だと思う。今日の舞台で「どんな役を演じるか」「どんな舞踊 に登場するか」 「決意」など、できれば本人の口から、(一言づつでも)披露すれば、もっとよい。
2 ミニショー・「林あさ美メドレー」
舞踊ショーに「テーマ」を設けることは、よい。どの劇団でも「顔見せ」「皮切り」「プロローグ」的な位置づけで演じているようだが、「はじめが肝心」(劇団の魅力を集中して見せることが大切)だと思う。各役者の「極め付き」を披露してみてはどうか。「氷川きよし」「天童よしみ」「都はるみ」「五木ひろし」「ちあきなおみ」など歌唱力豊かな歌手のメドレーを期待する。
3 芝居・「京都の落日」
不動倭の「三枚目」(酔客)が秀逸。<「藤山寛美」+「桂枝雀」÷2>という演技で、さわやかな印象を受けた。下賀茂神社の葵祭の景色は、大勢の役者を揃え、大劇場での舞台を思い起こさせるほどの、壮観さだった。
 殺陣、立ち回りも見事で、かつての「新国劇」を思い出す。特に、刀身が「切られ役」に接触する迫真の演技は、他の劇団とは違う。「しじみ売り」をはじめ、大勢の子役が、舞台の景色を「きめ細やかに」惹き立てていた。
4 口上
座長と不動倭の「掛け合いが」絶妙の呼吸で、「世相漫才」そのものだった。観客は、「口上」を通して、劇団の「人間関係」「内情」を「のぞき見」したいと思っている。劇団によっては「口上」を「売り」にしているところもあるくらいで、ますますの充実・発展を期待する。
5 グランドショー・「唐人お吉」他
唄いながら客席隅々まで「あいさつ」する座長、舞台で踊る津川しぶき、勝小虎、観客一人一人を最後の一人まで大切にする「誠実さ」に心打たれた。当日は、二曲目「夢芝居」だったが、「演歌みたいな別れでも」(・・・赤羽行きの夜更けの電車・・・)も聴きたかった。
「股旅シリーズ」など、テーマを設けた舞踊ショーの演出は、よい。津川らいちょう・しぶき兄弟の舞踊は「見事」。(将来、龍美麗・南條影虎兄弟を超えるのではないか)東海林太郎・三橋美智也はらいちょう、三波春夫・村田英雄はしぶき、というように「踊り分ける」のも面白い。三橋美智也は「優雅に」、三波春夫は「豪快に」、村田英雄は「憂愁を帯びて」といった雰囲気(表情)が醸し出されれば、「珠玉の舞台」となるだろう。
劇団指導・勝龍治の舞台は「芝居」「舞踊」ともに「さすが」の一語に尽きる。これまでに培われた「大衆演劇」の真髄を目の当たりに感じ、日頃の疲れが消え去る思いだった。(「芝居」(仇役)の重苦しさを払拭するために、「浮かれ」調子(「大江戸出世小唄」「チャンチキおけさ」のような「舞踊」も必要)
 座長演出の「唐人お吉」は名舞台。特に、落ちぶれたお吉を「後ろ姿」だけで踊った勝小虎、若き日のお吉を華麗に踊った座長のコントラストは感動的で、「至芸」という他はない。座長の「女形」は、往事の「淡島千景」を彷彿とさせてくれる。
6 この「劇団」の素晴らしさは「役者の人数が揃っている」(人数を揃えることは大変な 努力が必要であり、日頃の御苦労に敬服します)ことである。脇役、特に「立ち回り」「殺陣」の動き、切られ役の所作に、「実力」を感じた。
(2007.12.10)