梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

《唾棄すべき》「参政党が創る新日本憲法(構想案)」(令和七年五月)

梨野礫

 「参政党が創る新日本憲法(構想案」(令和七年五月)には、以下の説明が添えられている。      

 〈このたび、参政党では、党員の皆さまと共に2年がかりで取り組んできた「創憲」プロジェクトの成果として、新しい憲法案を完成させました。

憲法には日本人の価値観を反映し、日本が自立するための理念が必要だと考えます。

そのため、私たちは現行憲法の一部を改正する「改憲」ではなく、国民自身が主体となって憲法を一から創り直す「創憲」を提唱し全国各地で党員の皆さまと共にワークショップや勉強会で議論を重ねてまいりました。ぜひ、この憲法案をご一読いただき、国民が一から憲法を創ることの大切さを感じていただければ幸いです。〉

 「改憲」ではなく、憲法を一から創り直す「創憲」を提唱するとのこと、さてその結果がどのようなものか、中味を見てまさに「噴飯もの」、笑いが止まらなかった。

●第一条 日本は天皇のしらす君民一体の国家である。

  2   天皇は国の伝統の祭祀を主宰し,国民を統合する。

    3   天皇は国民の幸せを祈る神聖な存在として侵してはならない。

●第三条 天皇は全国民のために詔勅を発する。

    2  天皇は元首として国を代表し(以下略) 

●第四条  国は主権を有し、独立して自ら決定する権限を有する。

●第五条  国民の要件は父または母が日本人であり、日本語を母国語として、日本を大切にする心を有することを基準として法律で定める。

  2  国民は子孫のために日本をまもる義務を負う。

《以下略》

 ここまで読んだだけでも、その内容は「憲法を一から創り直す」どころか、かつての「大日本帝国憲法」の《二番煎じ》に他ならないことは明らかである。ワークショップや勉強会で議論を重ねても、「大日本国帝国憲法」の理念を超えることはできなかった証である。

 ちなみに、「大日本国帝国憲法」の条文は以下の通りである。

◎第一条 大日本帝国は万世一系ノ天皇之ヲ統治ス

◎第三条 天皇はハ神聖ニシテ侵スヘカラス

◎第四条 天皇ハ元首ニシテ統治権ヲシ総攬シ憲法ノ条規ニ依リテ之ヲ行フ

◎第十八条 日本臣民タル要件ハ法律ノ定ムル所ニ依ル   

◎第二十条  日本臣民ハ法律ノ定ムル所ニ従ヒ兵役ノ義務ヲ要ス

《以下略》

 「大日本帝国憲法」下にあった1946年1月1日、昭和天皇は「新年ニ當リ誓ヲ新ニシテ國運ヲ開カント欲ス國民ハ朕ト心ヲ一ニシテ此ノ大業ヲ成就センコトヲ庶幾フ」という詔書を官報により発布した。その内容の一部に「朕ト爾等国民トノ間ノ紐帯ハ、終始相互ノ信頼ト敬愛トニ依リテ結バレ、単ナル神話ト伝説トニ依リテ生ゼルモノニ非ズ。天皇ヲ以テ現御神トシ、且日本国民ヲ以テ他ノ民族ニ優越セル民族ニシテ、延テ世界ヲ支配スベキ運命ヲ有ストノ架空ナル観念ニ基クモノニモ非ズ」という文言がある。そこでは、天皇と国民は終始、相互信頼と敬愛によって結ばれ、神話とか伝説によって生まれたものではない、天皇は現御神である、日本国民は他の民族より優れており世界を支配する運命をもっているなどという架空の観念に基づくものではない、と述べられており、いわゆる「人間宣言」とみなされた。つまり、昭和天皇は「第一條 大日本帝國ハ萬世一系ノ天皇之ヲ統治ス」「第三條 天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス」といった「大日本帝国憲法」を貫いている「天皇主権」を、自ら否定したのである。その年の11月3日に「日本国憲法」が制定され、天皇は「象徴」という地位に位置づけられたが、天皇が人間であることに変わりはない。しかし、「象徴」であるために「国政に関する権能を有しない」。天皇は人間であるにもかかわらず、「参政権」を剥奪されている。事実、天皇及び皇室の「選挙権」は停止されてきた。これは「基本的人権」の侵害であり、「国民主権」の理念に叛する。 参政党が、もし「日本が自立するための理念が必要だと考える」なら、天皇主権の「大日本帝国」がどのようにして崩れ去ったか(なぜ「大日本帝国」は自立できなかったか、先の大戦によってなぜ300万人以上の国民が犠牲にならなければならなかったか)について学習する必要があるだろう。

 余談だが、今から20年余り前、平成16年(2004年)秋の園遊会で、東京都教育委員だった米長邦雄氏が天皇(現上皇)に「日本中の学校で国旗を掲げ、国歌を斉唱することが私の仕事でございます」と話したのに対して、天皇は「やはり強制になるということでないことが望ましいですね」と応じた。その理念を継承し、戦没者の慰霊を重ねている現天皇が、「国民を統合」したり「詔勅を発し」たり、「元首として国を代表」したりすることは、まず考えられないのである。

 ゆえに、「参政党が創る新日本憲法(構想案)」は、笑って《唾棄すべき》代物だと、私は考える。

(2025.7.19)