梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「行政刷新会議」と「匿名の奇跡劇」

 報道によれば、〈政府の行政刷新会議(議長・鳩山由紀夫首相)は27日、2010年度予算概算要求の無駄を洗い出す事業仕分けを終えた。9日間の作業で「廃止」や「予算縮減」の削減額は最大で約7700億円に上った。基金など「埋蔵金」の国庫返納額約1兆円を合わせ、財政効果は最大で総額約1兆7700億円になった〉(東京新聞11月28日付け朝刊・1面トップ)とのことである。要するに、来年度は1兆7700億円の無駄が削減されたことになる、ということであろう。ところで、この1兆7700億円という金額は、どれくらいのものなのか。私が認識できる金銭感覚は、せいぜい、数千万円単位まで、1億円以上になると「雲をつかむようで」全く分からない。はたして、その事業仕分けは(画期的な)「素晴らしい」効果(結果)をもたらしたものやら、どうやら、いっこうに判然としないのである。ちなみに、日本の人口を約1億人とし、財政効果の総額を1人当たりに換算すると、1万7700円ということになる。つまり、国民一人当たり1万7700円「得をした」と考えてよいのだろうか。そういえば、あの「定額給付金」は、国民一人当たり1万2000円~2万円であった。もしも、その程度の財政効果(国民の経済的利益)なら、たかが知れている。旧政権の政策と比べて、結果は「五十歩百歩」、残りは「麻生家」と「鳩山家」の《家風の違い》(いずれも大金持ち・お大尽であることに変わりはない)が漂っているだけの昨今である、と言っていいものやら悪いものやら・・・、「政治・経済音痴」の私には全く分からない。
 一方、同紙1面に載った「小4、3階から転落→通行女性、キャッチ」という(写真・図入りの)記事は、《近来稀に見る》感動的な内容で、一も二もなく「大きな感銘」を受けた次第である。内容は、いたって単純(簡単)。ある小学校の放課後、3階のベランダで遊んでいた4年生の男児(10)が誤って9メートル下に転落、その一部始終を目撃していた(通りがかりの)「女性」(弁当配達中)が両手で受け止めた。その結果、男児は右膝打撲程度の軽傷で済んだ。女性にもけがはなかった。当該小学校の校長は、「大事に至らなくて本当によかった。女性に感謝するばかり」と胸をなで下ろしていた、とのことである。この出来事に何の関わりもない私の立場からみても、この女性は素晴らしい。まず第一に、女性は男児にとって、何の関わりもない、たまたま通りすがりの「第三者」であったこと、第二に、にもかかわらず女性の行為は、男児のために心配し「体を張った」「第二者」としての役割をになったこと(まかり間違えば、二人とも落命していたかも知れないにもかかわらず・・・)、第三に、結果を最小限の被害にくい止めた(男児の負傷は軽傷)、第四に、女性自身無傷であったこと、等々、その冷静な判断力、的確な「行動力に、私は脱帽し尊敬する。とりわけ、女性自身が被害に遭わなかった(負傷しなかった)ことは、相手関係者(男児、担当教諭、校長、保護者)を「加害者」(申し訳ない、誤らなければならないという)の立場に立たせなかったという点で、まさに神業に値する、と私は思う。記事によれば女性の個人情報は皆無、この「匿名の奇跡劇」こそ、私たちの心の財産として永久保存しなければならない。まさに「文化勲章」「国民栄誉賞」授与に値する快事であった。
(2009.11.28)