梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「ここまでわかった新型コロナ」(上久保靖彦、小川榮太郎・WAC・2020年)要約・9・《■六十五歳以上のコロナ死亡率は1万人に0.3人》

■六十五歳以上のコロナ死亡率は1万人に0.3人
【小川】歴史の資料を見ていくと、疫病の流行が数年おきにある。高熱が出て、皆死ぬというような。
【上久保】インフルエンザの可能性はある。コロナでスパイクに変異が入ったときに起こる場合もあったかもわからない。今、日本での新型コロナでの死亡者の数が約1300人くらいとした場合に、日本の人口は1億2700万人くらい、死亡者の多くの比率を占め、死亡率は1万人中の0.3人だ。だから、極めて稀な死因と言うほかはない。私はもともと血液内科医で感染症が専門だ。
【小川】先生が専門外の事で過激で軽率な発言をしているような批判が散見される。先生の議論に対する根強い反発には、土俵の食い違いがある気がする。集団免疫という考え方は、生命システムのマクロの現象を見るわけだ。
【上久保】パンデミックのこの世界の動態を解明できる専門家というのはいない。
【小川】大きな感染が始まる。感染者数は無症候が多すぎてわからない。
【上久保】誰もエビデンス本位でわからない。
【小川】疫学というのは、病理学で明確な答えが出るのを待っていては社会政策を決定できない中で出てきた、いわば政策医学だ。それを可能な限り緻密な数値モデルとして出した時に、仮説だからダメだ、病理学的に証明してみろというのは、議論の土俵が違う。体内の免疫、抗体を調べれば、全部事態が解明できるか。
【上久保】マクロの現象としてのパンデミックはわからない。


【感想】
・上久保、高橋両氏の「集団免疫説」は《疫学》の観点から述べているのに対して、その批判は《病理学》の観点から行われている、つまり「土俵が違う」ということがわかった。では疫学の専門家は、両氏以外にはいないのだろうか。
(2021.1.27)

「ここまでわかった新型コロナ」(上久保靖彦、小川榮太郎・WAC・2020年)要約・8・《■コロナはもともと無症候の風邪》

■コロナはもともと無症候の風邪
【小川】インフルエンザもコロナも風邪だ。風邪は人類の歴史上、ずっと続いてきた。その中で悪性の流行病の記録が何年かに一度どの国の歴史書にも出てくる。
【上久保】そうした記録が変異の時だろう。記録がはっきりしているのがスペイン風邪だ。
【小川】スペイン風邪の死者は大変だった。今回のコロナウィルスも、スペイン風邪の再来かと危惧された。結果からみると、今回の新型コロナウィルスの流行は、例年のインフルエンザの死者数程度で、今年の波が収束したように見える。
【上久保】今の段階で見る限り、危険な変異に至ることはなかったようだ。コロナというのはもともと無症候の風邪だ。元気な人間は「微熱」「体調が今ひとつ」程度で済む場合が大半だ。体が弱い人だと二、三日熱が出る。幅があるがほとんどが無症候だ。
【小川】しかし、新型コロナはSARSやMERSと同じベータコロナウィルス属だ。おそろしいと思う人も出る。
【上久保】難しいところだが、徹底的に研究がなされるべきだ。私の考えを説明する。
・SARSは2002年11月に中国広東省で発生、約9か月の間に、全世界32カ国で死亡者774例を含む8096例の発症例(致死率9.6%)があり、高齢者や基礎疾患の存在が高致死率のリスク因子とされた。日本における発症例はなく、2003年7月5日にWHOにて収束宣言がなされている。2~10日程度の潜伏期間を経て、突然の発熱、震え、筋肉痛、下痢などのインフルエンザのような症状から発症する。発症者の80%において症状は改善するが、急速に肺炎や急性呼吸窮迫症候群になり増悪する人もいたので、新型コロナウィルス肺炎とよく似ていた。
・MERSは、2012年6月に60歳のサウジアラビア人から報告が始まり、中東への渡航歴のある人に発症しうる病気とされた。2017年のWHOの報告によると2070例の人が発症しており712名が亡くなっている。日本における発症例の報告はない。感染後4~14日くらいの潜伏期間を経て発症する。主な症状は発熱や、せきなどの呼吸器症状であり、やはりインフルエンザの初期症状に似ている。
・高橋淳先生は、MERSは元々、感染が広がりにくいウィルスで、集団免疫に達するレベルまでの流行は起こりえないし、SARSは流行が世界的に広がったものの不顕性感染がほとんどなく症状が強いため、症状が出てからしか他人に感染しないため、隔離による感染拡大防止が有効だったとお考えだ。
・私はその可能性もあると思うが、SAERやMERSでも集団免疫は否定できないと思っている。
【小川】それは興味深いが、大胆に聞こえる。
【上久保】症状や特徴は、一般的な風邪でみられるものだ。SARSやMERSの時は全世界でPCR検査をやっていなかった。渡航制限も行っていなかったので、無症候の感染が拡大していた考えた方がコロナ科ウィルスの感染力一般から考えると自然なのではないか。あくまで推測だが、SARSやMERSも集団免疫説をとりたいと思う。
【小川】そうすると、SRASやMERS、今回にせよ、科学の精度が上がった結果、コロナ科をウィルスを拾い上げすぎ、恐怖しすぎているのかもしれない、ということになる。
【上久保】風邪全般について、非常に研究が手薄だ。だから確かなことは言えないが、今回のように無症候でパンデミックが起こると、見えない敵なので、どこまでも恐怖が拡大してしまう。今回そういう現象が起きたのだ。エボラのように強烈な、感染したら即わかるというものは止められる。隔離して止めればいい。
【小川】激烈なもの、症状が恐ろしいウィルスは、自分が罹ったらいちころだけど、医療や行政が発達した時代には防御する様々な道がある。
【上久保】隔離したらそれで消えてしまう。でも、コロナのようなものでは隔離しようがない。症状は出にくいし感染力もやたらに高い。ビル・ゲイツも言っていたが、最もパンデミックで怖いのは、症状がないものだ。それがいつ、どれだけ広がったか、まったくわからない。気がつかないうちにもう上陸している。それが今回のようにスパイクの変異が起こって劇症化例が増えたりするとパニックになり易い。
【小川】今回、世界中でパンデミックの様相を呈したが、無症候、軽微な症状ということは、コロナウィルスそのものは、今までも毎年、何百、何千万人、うつっている。世界で言えば数十億人が罹患を続けてきた。でも気がついていない。たとえば夏風邪でちょっと
具合が悪くなるというように生じる。
【上久保】そう、コロナウィルス性の風邪だ。PCR検査をしないから、コロナと言わないできただけだ。
【小川】PCRしないで、寝て治してた。
【上久保】隔離もしない。
【小川】では、風邪と言われているものの多くがコロナウィルスという認識でいいのか。
【上久保】夏風邪とか言われているものはコロナだ。それ以外に、ロタウィルス、ノロウィルスとかがある。一般の風邪では、代表がコロナウィルス、他にライノウィルスやRSウィルスなどがある。こうした風邪でも特別な検査はなく、インフルエンザだけ検査をする。しかしPCR検査はしない。昔はワクチンも薬もなかったので、インフルエンザで亡くなる歴史上の人物も結構いただろう。


【感想】
・コロナウィルスは、2002年のSARS、2012年のMERSと同属のウィルスなので、「似ている」。だから劇症化するおそれがある。また「異なる」点は、無症状のまま他人に感染させる、目に見えない恐怖感がある。そうした不安が重なって、パンデミックの様相を呈しているということがよくわかった。
・当初、日本に上陸した新型コロナウィルスは弱毒型であり、その集団免疫によって強毒型のウィルスを撃退したとされているが、欧米、南米などで猛威をふるっているウィルスはSARSやMERSと「症状」「致死率」が「似ている」のだろうか。
・連日、公表されている(米ジョンズ・ホプキンス大の集計による)世界各国の「感染者数」「死者数」をもとに「致死率」を算出すると以下の通りであった(1月23日現在)。
■米国1.6% イタリア3.6% スペイン2.2% ドイツ2.4% フランス2.3% 英国2.6% トルコ1.0% 日本1.4% ロシア1.8% ブラジル2.4% インド1.4%。
 SARSの致死率9.6%、MERSの34.4%と比べると、「低い」値だが、高い時には10%を超える国もあったようだ。
 日本では高いときには5%台の時もあったが、この数か月は1%台で推移している。
どうしても外国の症例が気になって、「ただの風邪にすぎない」とは思えないというのが、大半の日本人の気持ちなのだろう。
(2021.1.26)

「ここまでわかった新型コロナ」(上久保靖彦、小川榮太郎・WAC・2020年)要約・7・《■十年に一度くらいスパイクが変異する》

■十年に一度くらいスパイクが変異する
【小川】ウィルスにも大別して二種類ある?
【上久保】はい。生物の遺伝子、ゲノム核酸にはDNAとRNAがあり、DNAを持つDNAウィルスと、RNAを持つRNAウィルスに分けられる。DNAは人を含むあらゆる生物の遺伝情報を保持して伝える分子だが、このDNAに突然変異が起こった時に、生物はそれを修復する機能を持っている。DNAウィルスは変異が起こりにくいウィルスだ。天然痘ウィルスはDNAウィルスなので、一度開発したワクチンが長期にわたって効果を発揮し、天然痘を撲滅することができた。インフルエンザウィルスやコロナウィルスはRNAウィルスで、誤ったコピーが発生しやすい。つまり変異が起こりやすい。
【小川】非常に変異しやすいから、何度もかかる?
【上久保】インフルエンザとコロナに関してはそう言える。
【小川】どういう理由から、繰り返し感染する?
【上久保】ウィルスにはスパイクタンパク質という棘みたいなものがある。一方人間の中の組織のACE受容体が鍵と鍵穴の関係になっている。コロナウィルスの構造は、N抗原など中心部とACE受容体とくっつくスパイク部分に大別される。今回、新型コロナで起きたのはスパイクの変異だ。それでACE受容体にくっつきやすくなった。
【小川】そういうことは初めてか。
【上久保】十年に一度くらいに変異が入ってきていると思う。
【小川】根拠はあるか。
【上久保】コロナの場合、過去に十分な研究がない。遺伝子情報のデータバンク(GISAID)が2008年に設立されたが、それ以前のデータはほとんどない。近年だと、SARSが2002年、MERSが2012年、新型コロナが2020年だから何かの形で周期性を追尾できるかもしれない。


【感想】
・コロナウィルスはRNAウィルスで、人間の細胞にあるACE受容体とスパイクタンパク質が結合して感染(ウィルスの増殖)がはじまる、ということは「本当はこわくない新型コロナウィルス」にも記されていたと思う。今回、コロナウィルスのスパイクタンパク質が変異して「感染しやすく」なった、ということである。ウィルスが体内(鼻や喉、胃や腸)に入った(付着した)だけでは、感染とは言わない(PCR検査では陽性となるが)。ウィルスが、体内の細胞にあるACE受容体と結合し(ウィルスが細胞内に侵入し)、かつ増殖が繰り返されたとき、初めて「感染」(発熱)し、症状が現れる。症状が現れたことにより「医療の対象」になるわけで、そうした場合に「感染者」となるのではないか。しかし、現状では、ウィルスが体内に入っただけで「感染者」と認定されている。PCR陽性者のうち15~20%は「無症状」と言われているが、実際はどうなのだろうか。厚生労働省はそのデータを示すべきだと、私は思う。
(2021.1.25)