梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「ここまでわかった新型コロナ」(上久保靖彦、小川榮太郎・WAC・2020年)要約・6・《第二章 コロナウィルスとは何か》

《第二章 コロナウィルスとは何か》
■ウィルスとは?細菌とは?
【小川】そもそもウィルスとは何かという一番基本から伺いたい。
【上久保】ウィルスは、感染力のある微生物の一つだ。微生物というのは、肉眼では見えない非常に小さな生き物のことだ。菌類や原虫も微生物だ。ウィルスは微生物の中でも最も小さい。自分では増殖能力がなく、細胞を持たない構造体で、他の生物の細胞を利用して自己を複製させる。遺伝子は持っているから、生物的な面と非生物的な面を持っている。それが人類などの生物の細胞に入り込み、病原体となることがある。地球ができ生命が誕生したときから生命と共に共生してきた。ウィルスがなかったことはない。細菌もなかったことはない。まったくゼロのところからウィルスが入ってきたということではなく、コロナウィルスにしても、インフルエンザにしても、太古から人類と共生して、感染の波を繰り返してきたものだ。
【小川】ウィルスと細菌はどう違うのか。
【上久保】細菌は微生物だ。一つの細胞しか持っていないため単細胞生物と言われる。ウィルスも微生物だが細菌よりずっと小さい。細菌には細胞があり分裂して自己増殖するが、ウィルスは細胞を持たず、自己増殖機能がない。自力で栄養を摂取してエネルギーを生産することもしない。他の生き物の細胞内に入り込み、その力を借りて自らを増殖させる。ウィルスが細胞に侵入すると感染する。ウィルスにあるNタンパク(RNA)が細胞の中で複製されて、増殖して、細胞の中でウィルスが増える。他の生物の細胞「宿主」とする点ではヤドカリみたいなものだ。ウィルスは細菌の十分の一から百分の一の大きさだ。
【小川】ウィルスと細菌と人類、他の動物も最初から共生している。
【上久保】人類の歴史は、感染症に脅かされてきた歴史だ。13世紀のハンセン病、14世紀のペスト、16世紀の梅毒、17世紀のインフルエンザ、18世紀の天然痘、19世紀のコレラと結核、20世紀に入ると、ヨーロッパを中心にインフルエンザなどの大流行が起こり、その後も世界各地でエボラ出血熱、エイズ、腸管出血性大腸菌感染症など「新興感染症」が発生し、人の移動が活発になると世界的な広がりを見せる。21世紀になるとSARSや新型コロナウィルスによる肺炎といった新興感染症が大流行し、現在も世界中の人々を脅かしている。
【小川】細菌にはどんなものがあるか。
【上久保】サルモネラ菌、ブドウ球菌、病原性の大腸菌で有名なO-157、インフルエンザ桿菌。インフルエンザは、ウィルスと細菌と両方ある。
【小川】ウィルスの方は?
【上久保】HIVウィルス、パピローマウィルス、ヘルペスウィルス。ペストやコレラは細菌だ。ペストはネズミなどを介して起こった。致死率が非常に高く、14世紀に起きた大流行では1億人が死亡したと推計されていて、当時の世界人口の22%にあたる。
【小川】細菌によってそういう感染症が起こるというのが医学的にわかったのは、いつ頃の学者によるか。
【上久保】北里柴三郎(1894年にペスト菌発見)。ベーリング(北里と共にジフテリアの血清療法を開発。コッホは、炭疽菌、結核菌、コレラ菌の発見者だ。ウィルスの存在がわかってきたのは19世紀の末頃だが、1932年、ドイツで発明された電子顕微鏡によってウィルスが目に見えるようになった。 

【感想】
・ウィルスは細菌と同じように微生物の一種だが、非常に小さく、電子顕微鏡でしか見ることができない。また、細菌は単細胞生物で自己増殖するが、ウィルスには細胞がなく他の生物の細胞に侵入し、その力で増殖する。その状態を「感染する」ということがわかった。人類の歴史はウィルスと共にあり、病原性のあるウィルスとの戦いの歴史であった、ということは大阪市立大学名誉教授の井上正康氏も「本当はこわくない新型コロナウィルス」という著書の中で述べていたと思う。
(2021.1.24)

「ここまでわかった新型コロナ」(上久保靖彦、小川榮太郎・WAC・2020年)要約・5・《■「集団免疫」を否定したがる人たち》

■「集団免疫」を否定したがる人たち
【小川】上久保先生の集団免疫モデルに疑問をぶつけてくる人が多数いる。不思議なのは抽象的に「仮説じゃないの」というだけで具体的、理論的、方法論的な批判があまり見受けられない。8月13日に村上康文東京理科大学教授による抗体の定量検査システムが発表され、日本人は免疫を充分獲得しているのではないかと実証された後も議論が盛り上がらない。自分はこう調べたと、疫学でも、ウィルスでも、ゲノムの情報でも、徹底して解析し、どんどん世に問うべきだ。
【上久保】そうだ。ゲノムも、HLAについても調べたらいい。HLA(ヒト白血球抗原)は、最初は白血球の血液型として発見されたが、半世紀以上を経て、白血球だけにあるのではなく、ほぼすべての細胞と体液に分布していて、組織適合性抗原(ヒトの免疫に関わる重要な分子)として働いていることが明らかになっている。このHLAの違いによって、コロナウィルスに強い免疫を持っている人がいるのかどうか?それでHLAを調べてみようというプロジェクトがある。マスクについても、効果を言いたい専門家はきちんと調べたらいい。結果を見せて互いに検証しあってゆくべきだ。検証の結果、HLAの違いがあった、ゲノムの違いがあった、人種の違いがあった、ということであれば私はその結果を認める。われわれは、インフルエンザの流行カーブを元にして今回の感染状況をすべて説明している。


【感想】
・上久保氏たちの集団免疫説にたいする疑問はすべて抽象的で、具体的、理論的、方法論的な批判が少ないということだ。
・私の知る限りでは、中部大学の武田邦彦教授が、「欧米の感染状況は国によって差がある。欧米のウィルスは弱毒型のK型が入る前に強毒型のG型が入ったため、被害、が拡大した、というが欧米の被害が少ない国にもG型が入っている。どう説明するか」という疑問が出されていたと思う。本書を読み進めれば、何かわかるだろうか。
(2021.1.24)

コロナ禍の《本質》

 「東京新聞」朝刊の23面に、「コロナの30代女性 自宅療養中自殺か 娘も陽性、思い悩む」という見出しのベタ記事が、《目立たないように》載っている。本来なら1面のトップ記事でも「相応しい」内容なのに・・・。以下は、その全文である。
〈新型コロナウィルスに感染した東京都内の三十代の女性が、自宅で療養中に亡くなっていたことが捜査関係者への取材で分かった。自殺とみられる。小学生の長女も同時期に陽性と判明。「学校でコロナを広めてしまった可能性がある。娘の居場所がなくなるかも」と夫に悩みを打ち明けていたという。捜査関係者によると、女性は夫と子どもの四人家族。女性と長女は先に陽性となった夫の濃厚接触者と認定され、今月8日にPCR検査で陽性が発覚。無症状だったため、自宅療養していた。15日朝に女性が自宅で倒れているのを見つけた夫が110番した。自殺をほのめかす内容のメモが見つかっているという。小池百合子都知事は都庁で取材に「コロナに感染された心のケアが必要だと強く感じた。どのような改善策があるか、よく検討していきたい」と話した。〉
 まことに痛ましい事例で言葉を失うが、「コロナに感染することは、あるまじきことであり、特に(無症状のまま)《他人にうつすこと》が許されない」という意識が、蔓延していることが分かる。この家族は4人中3人が感染したが、いずれも「無症状」だったようだ。それは《発病していない》ということであり、本来なら《喜ばしい》ことのはずなのに、なまじ無症状である故に周囲から《責められる》と感じてしまう。その「社会的構図」が、コロナ禍(人災)の《本質》ではないだろうか。その創出に大きく関わっている(危機感を煽り立てている)都知事にとってはまるで「他人事」のようで、「心のケアが必要。どのような改善策があるか、検討する」だと・・・。かけがえのない妻や母を亡くした家族にとっては、まさに「覆水は盆に還らず」なのだということを、リーダーとして思い知るべきだと、私は思う。
 ところで、この女性は「新型コロナによる死亡者」として認定されるべきなのだろうか。厚生労働省の見解をうかがいたい。 
(2021.1.23)