梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「自閉症からのメッセージ」(熊谷高幸・講談社新書・1993年)再読・13

【カード分類テスト】
《要約》
・自閉症児は、状況と関連させながら行動を進めることができない。一度プログラムを手にしてしまうと、それを変更しようとしない。また、微妙な感情のレベルで障害が見られる。
・自閉症児の振る舞いを見ていると、前頭前野における発達障害を疑わせるところが非常に多いのだが、この仮説はまだ学界であまり検討されていない。
・私は「ウィスコンシン・カード分類テスト」(このテストが前頭葉の働きを調べるうえで有効であることを発見したのは、カナダの神経心理学者ミルナーだった。彼女は、このテストを前頭葉の皮質を切除した患者に適用し、固執的な反応が多く見られることを発見した。)
・テストには、色・形・数の違う記号が描かれている128枚のカードが用いられた。検査は、横に並べられた4枚の刺激カードを見て、手渡された1枚の反応カードを、刺激カードの下に置いていく、被験者は、どこにおけば正しいかを知らされていない、という方法で行う。(例えば手渡されたカードが「赤・丸・3」のとき、赤の刺激カードの下におけば「よろしい」と実験者から言われることもある。しかし「間違い」と言われることもある。「赤」ではなく「丸」または「3」の下に置かなければならないときもあるからである。)
・被験者は、いろいろな場所に置いた後に、色が同じカードの下が正答であることを知る。正答が10回続くと、今度は形の同じカードの下が正答になり、さらに10回正答が続くと。数の同じカードの下が正答になる。その後は色、形、数という順序の判定基準が繰り返され、128枚のカードが終わるまで検査は続けられるのである。
・この検査のむずかしいところは、判定基準が被験者に知らされずに次々に変わっていくところにある。色から形に基準が変わったらなるべく早くそれに気づかなければならない。ところが、ミルナーによると、前頭葉皮質の切除者の場合は、前の基準に固執して反応する傾向が強く現れたのだった。また、被験者が実験者の評価におかまいなく自分で基準としたものに固執して反応する場合も多く見られた。
【自閉症児の固執反応】
・私は、このカード分類テストを自閉症児群10名と比較対照群の知能障害児群10名に適用してみた。その結果。誤反応総数(自閉症児群56.0%・知能障害児群55.9%)固執性誤反応(自閉症児群44.8%・知能障害児群32.0%)
・反応の具体例を示すと、自閉症児群の撃ち1名は形に、他の1名は数に最初から強く固執してしまい。こちらの「マル」とか「バツ」などの評価にはおかまいなくカードをおいていくもだった。2名の自閉症児は第一カテゴリーの色への固執が、他の3名の場合は第三カテゴリーの数への固執が強く現れ、なかなか次のカテゴリーへと移行できないのだった。
・(一方)多数の知能障害児には、①迷いながら反応し、カードを置きながら実験者の顔を窺う。②「マル」や「バツ」の評価に対して情緒的な反応を示す、ことが頻繁に見られた。彼らは、実験者が、何らかのプランにもとづいて「マル」とか「バツ」と言っていることを知っていた。被験者は実験者のこころの中に答があることに気づいていたのである。そして、実験者のプランを予想して行動した結果の当たりはずれに一喜一憂していたのである。
《感想》
・私は昔(1998年頃)、本書を参考にして、「カード分類テスト」を行ったことがある。対象児は中学3年の女子で「トランプカード」を使って実施した。結果は、著者の述べた通りで、固執性誤反応は80%近くに達したばかりか、彼女はいきなり「トランプカードを破り捨てる」という反応を示したのであった。当時は、私自身も「自閉症児の脳疾患説」を信じていたので、「なるほど」と納得してしまったが、「ではどうすれば、その疾患を改善・治癒できるか」という点については、全くの「お手上げ状態」で、なすすべもなかったことを思い出す。
・著者は「知能障害児」の反応として、「迷いながら・・・実験者の顔を窺う」「実験者の評価に・・・情緒的な反応を示す」ことを挙げているが、私の対象児の場合も、「私の顔を窺った」(その時は視線を合わせた)ことは鮮明に覚えている。また、「トランプを破り捨てる」という行動は、「怒り」という情緒的反応であることは明らかである。一見、(中学生として)常軌を逸しているようにも見えるが、ただ感情表現が未熟なまま「育ちそびれている」だけで、それを「自閉症」特有の症状(パニック)に結びつけることは誤りである、と私は(その当時も)思っていたが・・・。(2015.11.25)