梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「自閉症からのメッセージ」(熊谷高幸・講談社新書・1993年)再読・1

《はじめに》
【要約】
・自閉症とは、現在では、出生前もしくは出生後のごく初期に発生する発達障害の独特なタイプであると考えられている。それは、未完成な、また、それだけに爆発的な発達を遂げる幼い脳に起きた小さな出来事の結果によるものである。最初は小さな異変であったものが、大きな建築物の大事な骨組みにできたわずかな亀裂のように、その後につくられる構造に重大な歪みを生じたと考えられる。
【感想】
・「脳に起きた小さな出来事」により、その後につくられる構造に重大な歪みを生じたという考えには同意できる。はじめから「自閉症」の症状があらわれるということではなく、徐々に「自閉症になっていく」もしくは「自閉症児として扱われるようになる」という経過を辿るのではないだろうか。
・「脳に起きた小さな出来事」とは何だろうか。そのことを解明することが喫緊の課題だと思う。


【要約】
・本来同じ人間として生をうけた仲間の一部が、思いがけずも。微少ではあるが結果の重大な障害をうけ、孤独な旅に出ることとなったと考えるべきである。
・自閉症者が見せる融通のきかなさ、混乱したときに示すパニックなどは、健常者にもその面影を認めることができるものである。それらの行動は、特定の条件に限っていえば、私たちの生存に欠かせないものでさえある。私たちは、発達の分岐点において、かろうじて「正常」なほうの道を選ぶことができたので、右のような行動の発現のメカニズムを調節できるようになっただけである。
【感想】
・自閉症者「特有」の行動は、「私たちの生存に欠かせないものでさえある」という指摘には同意できる。それらを、私たちとは全く「異質な」ものであるという認識はあやまりではないだろうか。では、なぜ私たちは、「かろうじて、『正常』なほうの道をえらぶことができたのだろうか。それを選ばせた要因は何か。興味深い問題である。


【要約】
・ヒトの人間としての旅の始まりは、私たち一人一人が物心つくよりもずっと以前のことである。それは、多くの危険をはらんだ旅立ちでもあった。私たちは、この未明の嵐のことを忘れ、その後のもっと静かな光景だけを見ながら人生という旅を続けている。しかし、自閉症の人たちは、この時の嵐の激しさとその傷跡を克服することのむずかしさを身をもって私たちに警告していると考えることができる。
【感想】
・私たちの人間としての旅における「未明の嵐」とは、周産期から出生時に受ける大きな「ストレス」のことであろう。出生とは、胎内という安定した環境を脱出して、大気圧の空間に「投げ出される」ことである。その環境の激変にどれだけ耐えられるか、が人間には問われるのである。しかし、出生時の有様を記憶している人間は皆無であろう。「謎」は、その時に始まり、以後、解明されぬまま拡大していくのである。


【要約】
・「自閉症」とは、その名前から、私たちに顔をそむける、一風変わった人たちを示す症状としてだけ受け取られがちである。しかし、そうではなく、それは早期の障害によって、一人の人間のすべての構造が根こそぎ揺り動かされた結果を示す症状である。
【感想】
・「自閉症」の原語は「オーティズム」である。本来は「自動」という意味であり、「閉じこもる」という意味はない。それを「自閉症」と翻訳したのはなぜだろうか。行動特徴に「顔をそむける」といった「回避」行動が見られるというだけで「閉じこもる」と断定してよいだろうか。「回避」行動は、動物が自分の身を守るために必要不可欠であり、私たちの生存に欠かせないものではないだろうか。


【要約】
・そこから生まれる問題は、治療や教育の問題であるばかりではなく、脳とこころの全般的な問題であり、言語や、認識や、行動や、感情の問題であり、哲学の問題ですらある。そんな広い世界についての問題提起を、自閉症の人たちはおこなっているのだと思う。
・しかし、自閉症という障害は多くの人に知られるものとなり、私たちと彼らの間のより良い係わりのあり方がけんとうされるようになってきた。分岐した道は長い旅のあとで再び近づいてきたのである。今こそ、たがいの旅の道筋を振り返り、私たち人間のこれからの旅の目安にしたいものだと思う。
・以下、各章の冒頭では、自閉症にまつわる謎を一つずつ示していくことにする。読み進むうちに、謎として示されていたものはそれほど大きな謎ではなく、本当の謎は人間が普遍的に抱える問題であることに気づかれるのではないかと考えている。
【感想】
・はたして「自閉症」という問題は、「脳とこころの全般的な問題」であろうか。私には「幼い脳に起きた小さな出来事」の問題に過ぎず、その出来事に「適切に」対応できなかった結果だけの問題であるように思えてならないのだが・・・。
(2015.10.12)