梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「自閉症児」の育て方(3)泣き声の観察・1 

3 「自閉症児」の育て方・1・《泣き声の観察・1
 新生児を評価するチェック・ポイントとして、分娩の様態、「生下体重」、「黄疸の程度」、「乳の飲み具合」、等が挙げられるが、最も重要な観点は「産声の有無」「泣き声の強さ」である。「出生」は、人生の中で最も「危険を伴う時期」である。これまでの安定した胎内から、狭い産道を通って、外界に脱出する。その瞬間、新生児は大きく息を吸って「肺呼吸」を開始しなければならない。その際に発する音声が「産声」であり、その発声こそが「出生」の成功の証しである。また、「出生」によって、新生児をとりまく環境は一変する。母胎から離れたことにより、外界の刺激(気圧、気温、湿度、光線、物音など)を自分の身体で直接「受容」しなければならない。胎内に比べて、外界は「不安」である。様々な刺激が「千変万化」しながら、新生児に襲いかかる。そのことによって、新生児のストレスは高まり、「不快感」が増大する。その「不快感」で代表的なものは、「空腹感」と「排泄後の感覚」であろう。新生児は、それを取り除くために「泣いて」訴える。「泣く」ことこそが、新生児にとって唯一の(外界を生き抜くための)手段である。
 一方、親は新生児の「泣き声」に対して《無条件》に反応する。いつでも、どこでも。新生児が泣けば、「おなかが空いていないか」「おむつがよごれていないか」「どこか、痛いところがないか」という思いで、「世話」をする。その「世話」が功を奏せば、新生児は「泣きやむ」。そこで両者の「気持ち」(安定感)は一致する。この「一致感」が両者の「愛着関係」を形成する。新生児は親に「頼ろう」(依存)とし、親は「可愛い」と感じる。
 「自閉症児」(と呼ばれる子ども)の場合、この「出生」から「愛着関係の形成・成立」までの経過が、どのようなものであったか、を検証する必要がある。「産声がなかった」「泣き声が弱々しかった」「おなかが空いても泣かなかった」「おむつがよごれても泣かなかった」「いつも寝てばかりいた」などということがあったかどうか。また、あったとすれば、それに対して親はどのように「対処」したか。
 現代では文明の進歩により、様々な育児用品が開発され、親にとっては「世話」の負担が軽減されている。しかも、それらのアイテムは、新生児・乳児が感じる「不安定感」「不快感」を取り除くことを一義としているように思われる。その代表は「紙オムツ」、その活用によって、新生児・乳児の「不快感」は解消し「泣いて訴える」必要がない。親もまた、洗濯の多忙さから解放される、といった具合で、まことに「便利」な世の中になった。しかし、その利便性の中に大きな「落とし穴」があるのではないか。
 いずれにせよ、「自閉症児」(と呼ばれる子ども)にとって、「泣いて《訴える》」ことは、最も重要な課題であり、そのことが「育て方」の第一歩になることは間違いないのである。(2015.1.4)