梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「自閉症児」の育て方(4)泣き声の観察・2

4 「自閉症児」の育て方・2・《泣き声の観察・2》
 現代では、新生児・乳児が「泣く」ことに、(過度な)《不安》をもつ親がいるかもしれない。できるだけ「泣かない」状態を維持しようと努め、子どもが「泣き出す」前に、(授乳、おむつ交換などの)「世話」を始めてしまうかもしれない。昔から「寝る子は育つ」と言われているので、「いつも寝てばかりいる子ども」を放置し続けるかもしれない。養育の事情(大人の都合)により、「泣く」こと(たとえば「夜泣き」)を嫌悪し、「泣かせない工夫」をあれこれと講じるかもしれない。しかし、新生児・乳児にとっては、当面「泣く」ことでしか自分自身を表現できないことを理解すべきである。また、「泣く」ことは、「寝る」ことと同様に、「副交感神経」の働きを高める。「泣く子も(また)育つ」のである。したがって「泣かせない」ようにすること(育児法)は、子どもの(当面唯一の)「表現手段」を奪う結果となり、以後の(順調な)成長・発達を妨げるおそれがある。周囲の大人から「子どもを泣かせるな」という声を浴びせかけられても、気にすることはないのである。
 新生児・乳児の「泣き声」を観察していると、それが徐々に「変化」していくことがわかる。当初は「オギャーオギャー」という反射的・機械的(単調)であった発声が、強弱・抑揚・長短などが複雑に「変化」し、親は、その泣き声を聞いただけで、「なぜ泣いているのか」(何を訴えているのか)、およその「察し」がつくようになる。言い換えれば、子どもは「泣き声」を使い分けて、自分の要求を満たすことができるようになる。親は、その「泣き声」に対して、「ハーイ、(今、行きますよ)」「待っててね」「(そう、おなかが空いたの)、パイパイ飲もうね」「オムツ(取り替えようね)」などといった「音声」で(必ず・遠くから)応じなければならない。その「やりとり」が、将来の「対話」に発展していくからである。その「音声」(声かけ)は、子どもが「聞き分けやすい」、単純・明快(いわゆる幼児語)でなければならない。また、その「音声」(声かけ)を聞いて、子どもがどのように「反応」したか、を観察することが重要である。もし、その「音声」(声かけ)を聞いただけで、子どもが泣きやんだとすれば、「対話」の《基礎》が培われたことになる。加えて、その「音声」(声かけ)は、自分の「不快感」を「快感」に転じさせてくれる(喜びの)シンボルであり、自分にとっては「必要不可欠」なアイテムであることを、子どもは学ぶのである。不快を感じたら「泣けばよい」、泣けば親の声が「聞こえてくる」、そして自分の不快が取り除かれる、といった繰り返しの中で「親の声を聞くと安心する」「親は自分に喜びを与えてくれる」という気持ちが(しっかりと)育ち始める。(2015.1,5)