梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

私の戦後70年・祖母の葬儀

 昭和28年1月4日、焼き場は順番を待つ棺でごった返していた。祖母の棺を窯に入れたが、その数分後、誰かが叫んだ。「違う!違う!お棺を間違えた」、一同「えええっ」と驚き、係員が窯の扉を開けて、「熱い!熱い!」と言いながら、再び、祖母の棺を取り出した。釘付けされた蓋を、大急ぎで打ち破る。一同、おそるおそる覗き込んだが、中には白菊に囲まれた祖母が。間違いなく横たわっていたのである。一度窯に入れた棺を取り出すなど、言語道断・前代未聞の出来事だが、さればこそ、その光景は、今でも私の脳裏に焼き付いて離れない。母は39歳、父は67歳で他界したが、私も今年で71歳、祖母の享年72歳まであと一歩、「死の準備」を終えなければならない段階に来ている。頭では解っているつもりだが、気持ちは「上の空」、我欲・我執にまみれた日々を、未だに捨てることができないのである。(2015.4,4)