梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

私の戦後70年・金魚

 小学校二年頃のことだったか、私は秋祭りの夜店で金魚すくいをした。収穫は和金一匹、ビニールの袋に入れて持ち帰ったが金魚鉢がない。やむなくコップに入れて玄関先に置いた。しかし翌日には和金の姿は消えてしまった。あまりの狭さに跳び出してしまったのだろう。消沈している私を見て、父は豪華な太鼓型の金魚鉢を購入、数匹の琉金を入れてくれた。以後、濁った水の交換や金魚鉢の洗浄は父の担当になったが、ガラスの鉢は滑りやすく、割れること度々であった。金魚鉢は熱帯魚用の水槽に変わり、また陶器の甕へと進展する。最後はとうとう特注の木製プールになった。金魚も琉金から出目金を経て、らんちゅうへ・・・。平井まで行って稚魚を求め、イトミミズ、赤虫で飼育する。父が手を入れると、らんちゅうが掌に乗ってくる。父の飼育歴はほぼ十年に亘ったが、やがて公園の池に放つ時がやってきた。父が水辺に屈んで「ほら、自由に泳げ!」と放流すると、「子飼い」のらんちゅうたちは一泳ぎして、手元に戻ってくる。「フーン、可愛いもんだな」と父はしきりに感心していた。(2015.4,4)