梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「老いる」ということ・Ⅲ

 明け方、二階のベットで寝ていると、どこかでカラスが鳴き出した。カー、カーという声が、だんだん近づいて来る。数羽がお互いを確かめ合うように、カーと鳴くと、カーと応える。どうやらそのうちの一羽が窓の上まで来たらしい。ひときわ大きな声でカーと鳴いたので、私は思わず起きあがり、窓を開けて上を見た。そこには、大きなカラスが首をかしげている。ふと視線が合った。その瞬間、カラスは屋根の庇から足を踏み外し、激しく羽ばたきしながら、私の寝室に「転がり込んで」来た。すると、たちまち若い女性に変身して、「アタシ、○△×◆◎子っていいます。本当は人間だったけど、カラスにさせられちゃったの」と言うなり、布団の中にもぐり込んできた。「・・・ええっ?!」と仰天したところで、(私は)目が覚めた。まだ、カラスの鳴き声がどこかでしている。
 五里霧?、妄想?・・・、「老いる」とは、そういうことなのである。