梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

石ころ

 石ころ


この石ころは
今、どうして
ここにいるのだろう。
君を投げたのは誰か。
君を礫に仕上げたのは誰か。
これまで
君は何人の悲しみを見てきたか。
君は語らない。
なぜなら
これまで
誰も君に語りかけなかったから。
今、こうして
君と共に在ることは幸せだ。
君と交流できることは幸せだ。
でも
まもなく
私は君と別れなければならない。
私の命が尽きる時が来たのだ。
君は永遠に在り続け、
また誰かと出会うに違いない。
そんなとき
伝えてほしいのだ。
「欲しがってはいけない」
「憎んではいけない」
「殺してはいけない」
でも
石ころは
黙って在り続けるだろう。
(2017.6.1)