梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「数え日」

 「数え日」とは「もういくつ寝るとお正月」と数える日々のことだが、私の場合は「もういくつ寝るとお葬式」ということである。人生のカウントダウンに入ったようだ。いくつ寝ても明日は来ない。わずかに夢の中で現実を超える体験をしたとしても、すべては過去の繰り返しであり、明日への展望は皆無である。興味・関心はおのずと幼少期へ遡り、時には生誕以前の時代へと延びていく。なかでも父母や祖父母が生きた1930年代は興味深い。私はもっぱら当時の流行歌、映画でその世相を追体験している。今はインターネット(ユーチューブ)の恩恵により、昔のサイレント、トーキー映画を存分に鑑賞することができる。野村芳亭、島津保次郎、溝口健二、山本嘉次郎、伊丹万作、小津安二郎、成瀬巳喜男、山中貞雄、清水宏、等々による珠玉の名品が綺羅星のごとく居並び、若き日の徳川夢声、坂本武、笠智衆、齋藤達雄、藤原釜足、三井弘次、飯田蝶子、栗島すみ子、吉川静子、入江たか子、岡田嘉子、田中絹代、高峰秀子、桑野通子、等々の魅力的な映像を堪能できるのだ。未来よりも過去の究明を極めることによって、「今」とは何かを明らかにすること、自分は「最新の過去」としてその使命を全うすること、それを今年の計としたい。(2017.1.2)