梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「旧約聖書」通読・《創世記》・第35章

■第35章
・ときに神はヤコブに言われた。「あなたは立ってペテルに上り、そこに住んで、あなたがさきに兄エサウの顔を避けてのがれる時、あなたに現れた神に祭壇を造りなさい」。ヤコブは家族および共にいるすべての者に言った。「あなたがたのうちにある異なる神々を捨て、身を清めて着物を着替えなさい。われわれはペテルに上り、わたしの苦難の日にわたしにこたえ、かつわたしの行く道で共におられた神に祭壇を造ろう」。そこで彼らは持っている異なる神々と、耳につけている耳輪をことごとくヤコブに与えたので、ヤコブはこれをシケムのほとりにあるテレピンの木の下に埋めた。
・そして彼らは立ったが、大いなる恐れが町々に起こったので、ヤコブの子らのあとを追う者はなかった。こうしてヤコブは共にいたすべての人々と一緒にカナンの地にあるルズ、すなわちペテルにきた。彼はそこに祭壇を築き、その所をエル・ペテルと名づけた。彼が兄の顔を避けてのがれる時、神がそこで彼に現れたからである。時に、リベカのうばデポラが死んで、ペテルのしもの、かしの木の下に葬られた。これによってその木の名はアロン・パクテと呼ばれた。
・さてヤコブがパダンアラムから帰ってきた時、神は再び彼に現れて彼を祝福された。神は彼に言われた。「あなたの名はヤコブである。しかしもはやあなたの名をヤコブと呼んではならない。あなたの名をイスラエルとしなさい」。こうして彼をイスラエルと名づけられた。
・神はまた彼に言われた。「わたしは全能の神である。あなたは生めよ、またふえよ。一つの国民、また多くの国民があなたから出て、主たちがあなたの身から出るであろう。わたしはアブラハムとイサクとに与えた地を、あなたに与えよう。またあなたの子孫にその地を与えよう」。
・神は彼と語っておられた場所から離れてのぼられた。そこでヤコブはその場所に、一本の石の柱を立て、その上に灌祭をささげ、また油を注いだ。そしてヤコブはその場所をペテルと名づけた。
・こうして彼らはペテルを立ったが、エフラタに行き着くまでに、なお隔たりのある所でラケルは産気づき、その産は重かった。その難産に当たって、産婆は彼女に言った。「心配することはありません。今度も男の子です」。彼女は死にのぞみ、魂の去ろうとする時、この名をベニノと呼んだ。しかし、父はこれをベニヤミンと名づけた。ラケルは死んで、エフラタ、すなわちベツレヘムの道に葬られた。ヤコブはその墓に柱を立てた。これはラケルの墓の柱であって、今日に至っている。イスラエルはまた、ミグダル・エダルの向こうに天幕を張った。
・イスラエルがその地に住んでいた時、ルペンは父のそばめビルハのところへ行って、これと寝た。イスラエルはこれを聞いた。
・さて、ヤコブの子らは12人であった。レアの子らはヤコブの長子ルペンとシメオン、レビ、ユダ、イッサカル、ゼブルン。ラケルの子らはヨセフとベニヤミン。ラケルのつかえめジルバの子らはガドとアセル。これらはヤコブの子であって、パダンアラムで彼に生れた者である。
・ヤコブはヘブロンのマムレにいる父イサクのもとへ行った。ここはアブラハムとイサクとが寄留した所である。イサクの年は180歳であった。イサクは年老い、日満ちて息絶え、死んでその民に加えられた。その子エサウとヤコブとはこれを葬った。
(2021.10.6)

「旧約聖書」通読・《創世記》・第34章

■第34章
・レアがヤコブに産んだ娘デナはその地の女たちに会おうと出かけて行ったが、その地のつかさ、ヒビびとハモルの子シケムが彼女を見て、引き入れ、これと寝てはずかしめた。彼は深くデナを慕い、この娘を愛して、ねんごろに娘に語った。シケムは父ハモルに言った。「この娘をわたしの妻にめとってください」。さてヤコブはシケムが、娘デナを汚したことを聞いたけれども、その子らが家畜を連れて野にいたので、彼らの帰るまで黙っていた。シケムの父ハモルはヤコブと話し合おうと、ヤコブの所に出てきた。ヤコブの子らは野から帰り、この事を聞いて、悲しみ、かつ非常に怒った。シケムがヤコブの娘と寝て、イスラエルに愚かなことをしたためで、こんなことはしてはならぬ事だからである。
・ハモルは彼らと語って言った。「わたしの子シケムはあなたがたの娘を心に慕っています。どうか彼女を彼の妻にしてください。あなたがたはわたしたちと婚姻し、あなたがたの娘をわたしたちに与え、わたしたちの娘をあなたがたにめとってください。こうしてあなたがたとわたしたちとは一緒に住みましょう。地はあなたがたの前にあります。ここに住んで取引し、ここで財産を獲なさい」。シケムはまたデナの父と兄弟たちとに言った。「あなたがたの前に恵みを得させてください。あなたがたがわたしに言われるものは、なんでもさしあげましょう。たくさんの結納金と贈り物とをお求めになっても、あなたがたの言われるとおりにさしあげます。ただこの娘はわたしの妻にしてください」。
・しかし、ヤコブの子らはシケムが彼らの妹デナを汚したので、シケムとその父ハモルに偽って答え、彼らに言った。「われわれは割礼を受けない者に妹をやることはできません。それはわれわれの恥とするところですから。ただこうなされば同意します。あなたがたのうち男子がみな割礼を受けて、われわれのようになるなら、われわれの娘をあなたがたに与え、あなたがたの娘をわれわれにめとりましょう。そしてわれわれはあなたがたと一緒に住んで一つの民となりましょう。けれどももしあなたがたが割礼を受けないなら、われわれは娘を連れて行きます」。
・彼らの言葉がハモルとシケムとの心にかなったので、若者はためらわずにこの事をした。彼がヤコブの娘を愛したからである。また彼は父の家のうちで一番重んじられた者であった。そこでハモルとシケムとは町の門に行き、町の人々に語って言った。「この人々はわれわれと親しいから、この地に住まわせて、ここで取引をさせよう。地は広く、彼らを入れるにじゅうぶんである。そしてわれわれは彼らの娘を妻にめとり、われわれの娘を彼らに与えよう。彼らが割礼を受けているように、われわれのうちの男子が皆、割礼を受けるなら、ただこの事だけで、この人々はわれわれに同意し、われわれと一緒に住んで一つの民となるのだ。そうすれば彼らの家畜と財産とすべての獣とは、われわれのものとなるではないか。われわれが彼らに同意すれば、かれらはわれわれと一緒に住むであろう」。
・そこで町の門に出入りする者はみなハモルとシケムとに聞き入って、すべての男子は割礼を受けた。
・三日目になって彼らが痛みを覚えている時、ヤコブのふたりの子、すなわちデナの兄弟シメオンとレビとはおのおのつるぎを取って、不意に町を襲い、男子をことごとく殺し、またつるぎの刃にかけてハモルとその子シケムとを殺し、シケムの家からデナを連れ出した。そしてヤコブの子らは殺された人々をはぎ町をかすめた。彼らが妹を汚したからである。
・羊、牛、ろば及び町にあるものと、野にあるもの、すべての貨財を奪い、その子女と妻たちを皆とりこにし、家の中にある物をことごとくかすめた。そこでヤコブはシメオンとレビに言った。「あなたがたはわたしをこの地の住民カナンびととペリジびとに忌みきらわせ、わたしに迷惑をかけた。わたしは、人数が少ないから、彼らが集まってわたしを攻め撃つならば、わたしも家族も滅ぼされるであろう」。彼らは言った。「わたしたちの妹を遊女のように彼が扱ってよいのですか」。
(2021.10.5)

「旧約聖書」通読・《創世記》・第33章

■第33章
・さて、ヤコブは目を上げ、エサウが400人を率いて来るのを見た。そこで彼は子供たちを分けてレアとラケルとふたりのつかえめとにわたし、つかえめとその子供たちをまっ先に置き、レアとその子供たちを次に置き、ラケルとヨセフを最後に置いて、みずから彼の前に進み、七たび身を地にかがめて、兄に近づいた。
・するとエサウは走ってきて迎え、彼を抱き、その首をかかえて口づけし、共に泣いた。エサウは目を上げて女と子供たちを見て言った。「あなたと一緒にいるこれらの者はだれですか」。ヤコブは言った。「神がしもべに授けられた子供たちです」。そこでつかえめたちはその子供たちと共に近寄ってお辞儀した。レアもまたその子供たちと共に近寄ってお辞儀をし、ヨセフとラケルが近寄ってお辞儀をした。するとエサウは言った。「わたしが出会ったあのすべての群れはどうしたのですか」。ヤコブは言った。「わが主の前に恵みを得るためです」。エサウは言った。「弟よ、わたしはじゅうぶんもっている。あなたの物はあなたのものにしなさい」。ヤコブは言った。「いいえ、もしわたしがあなたの前に恵みを得るなら、どうか、わたしの手から贈り物を受けてください。あなたが喜んでわたしを迎えてくださるので、あなたの顔を見て、神の顔を見るように思います。どうかわたしの持ってきた贈り物を受けてください。神がわたしを恵まれたので、わたしはじゅうぶん持っていますから」。こうして彼がしいたので、彼は受け取った。
・そしてエサウは言った。「さあ、立って行こう。わたしが先に行く」。ヤコブは彼に言った。「ごぞんじのように、子供たちは、かよわく、また乳を飲ませている羊や牛をわたしが世話をしています。もし一日でも歩かせ過ぎたら群れはみんな死んでしまいます。わが主よ、どうか、しもべの先においでください。わたしはわたしの家畜と子供たちの歩みに合わせて、ゆっくり歩いて行き、セイルでわが主と一緒になりましょう」。
・エサウは言った。「それならわたしが連れている者どものうち幾人かをあなたのもとに残しましょう」。ヤコブは言った。「いいえ、それには及びません。わが主の前に恵みを得させてください」。その日エサウはセイルへの帰途についた。ヤコブはスコテに行き、自分のために家を建て、家畜のために小屋を造った。これによってその所の名はスコテと呼ばれている。
・こうしてヤコブはパダンアラムからきて、無事カナンの地のシケムの町に着き、町の前に宿営した。彼は天幕を張った野の一部をシケムの父ハモルの子らの手から100ケシタで買い取り、そこに祭壇を建てて、これをエル・エロヘ・イスラエルと名づけた。
(2021.10.4)