梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

旅人に病んで夢は枯野をかけめぐる・3

 私は中学校の校舎内を歩き回り、戸や窓の施錠を確認している。その時、隣の小学校からスピーカーを通して校長の声が聞こえてきた。「下校時刻が過ぎています。さあ、早く家に帰りましょう。」そこまではよかったが、なぜか私の実名を出して、「○○○○は、規則を破り、いつも遅くまで学校に残っています。生徒が真似をして帰宅しないので、保護者からたくさんの苦情が来ています。駅や警察にも『何とかしてくれないか』という陳情が寄せられています。」私は「・・・またか!」と思った。次の教室を覗くと、顔見知りの教頭が二人、笑いながら茶を啜り、タバコを吹かしている。その隣の教室では、私が最も親しくしている用務員が一人で椅子に座っており、心配そうな表情をしている。目が合ったので、黙って手招きをすると、立ち上がり近寄って来た。私は、通過した教室まで後戻りして、彼を連れて行き「あれを見ろ。校舎内は禁煙だろ?」。用務員は大きくうなずいて、立ち去ったが、その後どうなったかはわからない。
 私自身が「夢」から醒めたからである。退職後18年が経過したが、いまだに「悪夢」は繰り返される。それもそのはずだ。来年こそ「彼岸に渡りたい」(悟りの境地を体験したい)などと、凡夫らしからぬ不届き千万な目論見を企んでいたのだから・・・。
(2018.12.31)