梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

70回目の「夏」

 梅雨明けも間近、私にとって70回目の「夏」がやって来る。少年時代、「夏」という言葉を聞くだけで胸躍ったが、今は逆である。お世話になったあの人は老いを重ね、この「夏」を無事超せるだろうか。親しかったあの友は病の身、その症状が急変することはないか。それにしても、往時の「夏」は今より涼しかった。気温は最高でも33度を上回ることは珍しかった。クーラーも、電気冷蔵庫も無い時代、人々は団扇と風鈴、葦簀、かき氷で暑さを凌いでいただけなのに・・・。「もっと涼しく」という煩悩が、今の暑さを招いてしまったに違いない。「地球温暖化」という現実が、私たちを苦しめる。だが、待てよ。往時は「人生七十古来稀なり」の時代、70回目の「夏」を迎えることなど、夢のような話であったかもしれない。だとすれば、「古稀」の祝いと引き換えに、猛暑・酷暑の「夏」を甘受しなければならないか・・・。とまれ、故障した寝室のクーラーを修繕・買い換えることは控えるつもりである。(2014.7.20)